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2025年6月24日に行われた、民主党のニューヨーク市長選候補を決める予備選で、まさかのゾーラン・マムダニが勝利した。
NYTによれば、6月25日の開票率93%の時点での得票数は次の通り。
Zohran Mamdani 432,305票 (43.5%)
Andrew M. Cuomo 361,840票 (36.4%)
Brad Lander 112,349票 (11.3%)
Andrew M. Cuomo 40,953票 (4.1%)
「まさかの」というのは対抗が、前州知事のアンドリュー・クオモだったからだ。クオモは日本でもコロナ禍のときの俊敏な対応で有名になったが、その後、MeToo運動の中で、クオモからセクハラを受けたと訴える複数の女性が登場したことで、州知事を辞任し、今回の予備選に立候補するまでは身を潜めていた。
したがって、クオモ自身は今回の立候補で、政治家として起死回生を図ろうとしていたはずで、それゆえ、予備選では負けたものの、本選にインディペンデントとして立候補するオプションを保留したままでいる。
それで、肝心の当選者であるゾーラン・マムダニだが、彼はとにかく属性がもりもり。
まず「33歳の州議会下院議員」で、老齢政治家の蔓延にうんざりした人たちからすれば「世代交代」の象徴である。
ついで、彼自身、「民主社会主義者」を自称していること。要するにAOCやバーニー・サンダースの仲間であり、一般には「プログレッシブ(進歩派)」と呼ばれる極左グループのひとり、ということになる。それは、マムダニが選挙公約として「アフォーダビリティ(手の出せる値段)」を強調しているところに見られる。家や交通にかかる費用を、庶民が安心して手を出せる範囲に抑えることを目指している。
それから、「アフリカのウガンダ出身のムスリムで、両親はインド系」であること。出身地や宗教、民族」の点で、「多様性」の象徴のような存在。ある意味でオバマのような人物。
ちなみに、もしもマムダニが当選したら、初めてのムスリムのニューヨーク市長になる。24年前の、いわゆる「911事件」の後、しばらくの間、ムスリムやアラブ系に対する差別的な言動がNYCで続いていたことを思えば隔世の感がする。
ちなみにマムダニの父親はアフリカ研究の専門家としてコロンビア大学で教授を務めていたこともある。インテリ移民の子弟ということだ。
こうしたマムダニの「盛りだくさんの属性」を反映して、彼は、ざっくり言ってブルックリンやクイーンズなどの「庶民」ボローで(マンハッタンでも買ったが)、大卒者を含むミドルクラス以上のニューヨーカーから支持を集めて勝利した。クオモが、低学歴世帯や黒人からの支持を集めたのと対照的だ。
ともあれ、わざわざ予備選にまでやってくる、いまだに「政治に希望を抱く」民主党支持者としては、世代交代と新移民の象徴であるゾーラン・マムダニ「推し」で行くほうを選んだ。
昨年の大統領選以来、低迷し沈滞している民主党に対して、今回の予備選結果は一つの指標になるのだろう。折しも、プログレッシブの刺客候補を各地の予備選に押し込もとうしていた活動家デイヴィッド・ホッグが、民主党全国委員会(DNC)のヴァイス・チェアを辞任を余儀なくされたタイミングだった。
DNCなど選挙を牛耳る民主党の上層部は、党のプログレッシブ化=極左化を避けたわけだが、その傍ら、一般の党支持者たちは、より極左的な人物を選んだことになる。
この「党の上と下」での分断が、このまま広がり続けないことを願うばかり。
「民主社会主義(democratic socialism)」とは、ヨーロッパ的にいえば「社会民主主義」路線、つまり中道左派路線を指すわけだが、「自由」への思い入れが強く、ソ連の記憶から「社会主義嫌い」が定着しているアメリカでは、今回の予備選の結果は、ニューヨークがますます「アメリカ離れ」していることを示しており、その意味でも心配になってくる。
そんな状態で、ニューヨーク市民は、11月のニューヨーク市長選に向かうことになる。
さきほど、クオモがインディペンデントとして本選に参戦するかも、と書いたけれど、インディペンデントでの参戦といえば、すでに現職のエリック・アダムス市長が再選を目指して名乗りを上げている。
アダムスは、収賄などの不正行為で2024年に起訴されたため、再選は絶望的と思われていたのだが、その起訴を、トランプ政権になってから司法省が取り下げたため、彼の不正行為も有耶無耶になった。
この起訴の撤回は、それによってアダムスの政治生命を繋ぎ止めてやる代わりに、トランプ政権が進める移民への各種強行政策を生むも言わさず実行してもらう、という、トランプとアダムスとの間の(あからさまな)密約として解釈された。
それもあって、再選を目指すにしても、民主党の予備選の通過は難しいということで、現職の強み?を生かして、インディペンデントとしていきなり本選に参戦することを選んだ。
ということで、11月の本選は、ゾーラン・マムダニにエリック・アダムス、それにアンドリュー・クオモという、3人の民主党関係者と、共和党の候補者が加わった4人で競われることになりそうだ。
もちろん、それでは票が散って、結果として民主党系候補が全滅する可能性もなきしもあらずなので、事前に調整が図られるかもしれないが、それも含めて、「今後の民主党はどうなる?」ことを考えるための触媒として、今年のニューヨーク市長選は活用されるのかもしれない。
ニューヨーク市といえば、出版や報道のお膝元でもある。ただでさえ「ご意見番」が多い土地柄なので、想像以上に白熱した「検討」がなされることになりそうだ。
ともあれ、NYCのゴッサム・シティ感が増してきた!