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2025年4月9日、アメリカのトランプ大統領は、「相互関税」と彼が一方的に称している、その意味では「トランプ関税」といったほうがよい「関税率」の上乗せの実施を90日間停止すると発表した。その結果、株式市場は猛反発し、ダウ平均は2962ドル高に達した。この上げ幅の大きさは、2008年、ということはリーマンショックからの反発に近いということのようだ。NYSEだけでなくNASDAQも同様の急反発を示したという。
一週間前の4月2日に「Liberation Day(解放の日)」と称して「トランプ関税」を発表して以来、アメリカの株式市場は継続して大幅に株価を下げ、それらは週明け、世界各地に飛び火した。とりわけアジア市場が大きく冷え込んだのは周知の通り。これは、トランプ関税の試算が、基本的に当該国との貿易におけるアメリカの「輸入と輸出の相対比」で決まるため、「世界の工場」として日用品を中心に様々な消費財を製造しているアジア諸国に対する関税の上乗せ率が懲罰的に高かったためだ。
ともあれ、アメリカでは「トランプ関税」の発表で、株式市場は、2020年以来の下げ幅を記録したというから、要するに、トランプの言動で「コロナショックによる撃沈と、リーマンショックからの復活」の2つの歴史的イベントが、再演されたことになる。
トランプの気まぐれな舌先三寸で、歴史が2度も繰り返すような乱高下というパフォーマンスが示されたのだから、これはもはや、株式市場がミーム化されたと言ってよいのだろう。
実際、突然の「トランプ税実施の停止」に合わせて、トランプ本人は「今こそ「買い!」」とXにポストしていたため、それが誰に向けたメッセージだったのか、そして、この「停止」を事前に知り得たものがインサイダートレーディングをしていないか、など、新たな政治的火種になっている。
要するに、トランプは、NYSEやNASDAQをミーム株を扱うように乱高下させる世界に変えてしまった。
なぜなら、確かにこの「停止発言」で株価は一時的に戻ったかもしれないが、では、その後どうなるかは引き続き不透明だからだ。トランプの発言を聞いていると、中国のようにトランプ関税に対して同様の高関税率で対抗措置を即座に採った国に対しては、「停止」を行わないというから、要するに2日に発表した「トランプ関税」とは、トランプ政権に対して敵対的な態度を取るか、それとも恭順の態度を取るか、を見分けるためのリトマス試験紙だったことになる。恭順を示すものは、ホワイトハウスに出向き、頭を垂れよということだ。
トランプからすると、江戸幕府における参勤交代のように、とにかく自分への忠誠度に応じて2国間協定のさじ加減を決めるということなのだろう。その意味でトランプ関税とは、彼が共和党や大統領府の掌握(というか占領)のために行ってきた「忠誠度テスト」の国外版だったことになる。
言い換えれば、見事に、貿易を「武器化(weaponize)」した。
ただ、そうした結果、他国からアメリカへの信頼が減じていることはまちがいなく、そうした感情が将来的にアメリカへの投資にどう影響するかは未知数となる。トランプ陣営からすれば、関税の「交渉」の際に、そうしたアメリカ国内への投資の確約もつけようとするのだろうが。それをもって「ディール」というなら、確かに「ディール」なのかもしれない。
ともあれ、ロンドンのシティとともに国際金融の拠点であるニューヨークのウォール街を武器化した、そしてそこで取引される金融商品をミーム化した。いまはとりあえず「関税」の話から実態のある「貿易」についての議論に集中しているけれど、その次には、金融商品や金融取引についても隠し玉があるのかもしれない。それはトランプと「クリプト・ブロ」とのつながりを反映したものになるのかもしれない。