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先日、飛行するロボットであるDroneを使って無人配送の計画を発表したAmazonだが、それに続いて、「anticipatory shipping=予測配送」という方法を特許申請した。
Amazon Wants to Send You Stuff Before You’ve Even Decided to Buy It
【Time: January 18, 2014】
「anticipatory shipping=予測配送」というのは、その名の通り、顧客の過去の購買履歴やサイト上での行動履歴にもとづいて、顧客が購入しそうな商品については配送センターから先んじて発送してしまう、というものだ。
つまり、
ユーザーの購入履歴から買いそうなもの絞り込んでおいて
実際にユーザーがその商品にアマゾンのサイト上で接触する動作をしたら、
発送のゴーを出して、
近場の倉庫やトラックで待機状態にする、
予想通り、ユーザーがその商品を購入したら、
即座に届ける、
という方法だ。これは一種のビジネスモデル特許であり、申請が通ったからといって、即座に実行に移すということではないようだ。
とはいえ、先述のDroneによる無人配送の計画と同じく、この背後には、今後のAmazonの成長にはロジスティクス網におけるイノベーションが不可欠だという見方がある。
というのも、約束した時間内に顧客に商品を届けることはオンラインショッピングのサービスの根幹に関わることであり、そこでの失敗は顧客の満足度を著しく下げ、次回以降の購入意欲に大打撃を与えるからだ。
たとえば、この12月のクリスマスシーズンには、寒波による悪天候と注文の殺到により、実際に顧客の家にまで商品を届ける役割を担っているUPSなどの配送会社が、クリスマス当日までに、プレゼントを届けられなかった、という事故が起こってしまい、AmazonやWalmartといったオンラインショッピングサイトの信頼は大きく損なわれた。もちろん、直接的な責任は、末端の配送を請け負っていたUPSが対処すべきことではあるが、しかし、顧客からみたら、配送のアレンジを含めてオンラインショッピングサイトの責任と感じてしまう。結局、優待クーポンなどを提供することで、オンラインショップが顧客への対応を行った。
こうした事態を可能な限り排するためにAmazonが考えているのが、一連のロジスティクス改善方法の開発になる。できるだけAmazon自身がロジスティクスの全体の管理に乗り出そうとしているように見える。Droneにしても予測配送にしても、そうした戦略が具体化されたものと考えられる。
ここで少し考慮に入れなければいけないのは、以上の対応はアメリカの状況を踏まえたものであるということだ。たとえば、少し前にAmazonが「サンデイ・デリバリー」を行う発表し、アメリカでは話題になっていたが、しかし、これは日本にいると全くピンとこないだろう。日曜の配送は(頻度は下がっても)当たり前のように行われているからだ。こうしたところに日米の社会環境の違いが現れてしまう。
そういう意味では、GoogleとNestのエントリーで書いたように、ここでも日米の状況の違いが具体的にそのような施策が展開されるかどうかに影響することになる。特に、今回のデリバリーの話は、ロジスティックスの設計といってもほとんど小売の直前のような部分にあたる。日本であればコンビニが対応しているところまでをデリバリーで完結させようというのがAmazonの考え方なのだろう。そして、日本ほどにはコンビニが小売店舗の中核にまでなっていないアメリカの事情を考えると、無店舗のコンビニという方向に舵を切っているともいえるだろう。
今回のanticipatory shippingにしても、その意図は可能な限り商品を配送するために要する時間を短縮することにあり、そのために宅配の一歩手前のところにまで予め商品を物理的に移動しておこうとするものだ。こうした動きはひとえにアメリカが日本とは比べ物にならないほど空間的に広大であり、都市と郊外といっても、例えば日本の首都圏のように、一極集中とスプロールが寄せては返す波のように生じるものとは異なる空間配置をしているためだ。つまり、同じ「ワンデイ・デリバリー」といっても、日米ではそのために解決すべき問題の在処が全く異なることになる。
マンハッタンに住んでいた時にAmazonで頼んだ書籍はデリバリーの履歴を見るとケンタッキーやカンザスから送られることがままあった。今では、配送センターの全米最適化ももっと進められていることだろう。顧客の住居情報だけでなく、位置情報をスマホで送ることで、配達先の顧客の位置の把握の仕方にも大きな変化が生じている。そういった情報環境の変化に、Amazon自身の経験値(その多くはBig Data分析だが)を加えることで、「商品を届ける」ために、商品をどこにストックするかの工夫がなされる。その昔、日本で宅配便が普及し始めた頃、宅配便は道路を倉庫代わりにしている、という指摘がなされたものだが、日本の場合、日常商品がストックされる場としては、その後、コンビニが都市の隅々にまで行き渡った。先ほど、Amazonがやろうとしていることは、無店舗のコンビニではないか、と書いたのは、宅配便やコンビニという組み合わせのソリューションでロジスティックスを最適化した日本とは異なる解の一つとして想定したものだった。
ついでにいえば、アメリカでBig Dataの効果としてあげられる、一見すると購買活動との因果関係がない様々な事象(たとえば、気温や湿度、街のイベント、時間、等々)と購買活動との相関関係を解析することで、仕入れや販売の効率化を目指す、というアイデアは、既に日本であればコンビニで実践済みのものである。因果関係よりも相関関係というのは20年も前から日本では常識だった。だから、流通の最適化については日本のほうが進んでいるといってよいだろう。その一方で、これからまだそのような最適化の余地があるアメリカでは、流通の変革の伸び代がまだまだあることを意味する。その伸び代の獲得に尽力し続けているのがAmazonだ。だからこそ、書籍ではBarns & Nobleと、スーパーではWalmartと、と言った具合に各種流通の大手が展開してきたロジスティックスに、ディスラプター(破壊者)として挑戦し、新しいロジスティックスの構築を行ってきた(したがって、世間からの評価は厳しくなるに決まっていた)。
こう見てくると、Amazonのビジネスのホームグランドはコマースにあることを再認する。そこへのこだわりがGoogleやApple、あるいはFacebookやTwitterなどと異なる戦略を取らせることに繋がる。