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GoogleのEric Schmidtと、Google Ideas のJared Cohenが、ようやく共著である“The New Digital Age: Reshaping the Future of People, Nations and Business”を刊行した。
Formatting a World With No Secrets
【New York Times: April 25, 2013】
2010年に同じく二人でForeign Affairsへ寄稿した“The Digital Disruption”での議論を拡張させ深化させたものと考えてよいのだろう。
SchmidtはGoogleのCEOを退いてからは、インターネットが社会、中でも国際社会に与える影響に関心を示しており、先日も元ニューメキシコ州知事のBill RichardsonとともにNorth Koreaを訪問し、彼の地でのインターネットの利用環境について視察を行なってきている。
一方、共著者であるCohenは、Stanfordを卒業した後、ローズ奨学生としてOxfordで学んだ国際政治の専門家で、卒業後はHillary Clinton が国務省長官を務めていた国務省に勤務していた(なお、ローズ奨学生は、イギリス人のセシル・ローズが設置した奨学制度で、国際政治の分野を中心にOxfordで学ぶ機会を与えるもの。ローズ奨学生は国際関係論の分野で有為の人材を発掘し育成するための制度としてアメリカでは機能している)。その過程で、国際政治の文脈におけるインターネット、とりわけソーシャルネットワークのもつ役割を訴えていた。Schmidtと知り合った後、Googleがニューヨークのチェルシー支社に設置したGoogle Ideasというシンクタンクに移籍した。
もちろん、Google Ideasがニューヨークにあるのは、国連本部の所在地であるからだろう。Foreign Affairsを発行するCFR(Council of Foreign Affairs)もニューヨークに本部を置いている。
ちなみに、雑誌としてのForeign Affairsは通常は国際政治や国際経済に関する見通しを示す論文が掲載されるが、時折、Schmidt & Cohenの論文のように、インターネットやウェブの国際政治や国際開発における意義を訴える論文も寄稿される。Schmidt & Cohenの他にも、最近では、3Dプリンタを契機にしたDigital /Personal Fabricationの意義を唱える、MIT教授の Neil Gershenfeldによる“How to Make Almost Anything”も掲載された。最新号では、Kenneth Neil Cukier とViktor Mayer-Schoenbergerによる“The Rise of Big Data”が掲載されている。二人は“Big Data: A Revolution That Will Transform How We Live, Work, and Think”という本の著者でもある。
つまり、このようなテクノロジーが国際政治に与えるインパクトについて扱う文脈の中で、件のSchmidt & Cohenの本も上梓されたことになる。
Schmidtは、もともとは東海岸出身で学部はPrincetonで学び、その後、UC Berkleyで計算機科学を専攻し、Bill Joyとともにバークレー版UNIXの開発に関わり、そのままJoyらが設立したSun Microsystemsに入社した。つまり、彼は、西海岸の開放的な風土に憧れてわざわざ東海岸からサンフランシスコに移り、そこでハッカーカルチャーの最初期の面々とともにインターネットの出発点であるUNIXの開発に携わった。そして、分散型コンピュータの実装のために必要なワークステーションの製造販売を行うSUNの設立に参画した。
要するにSchmidtは、文化としてのインターネットの創立者メンバーの一人といっても過言ではないだろう。その彼が、インターネットをインターネットたらしめる理念としてフリー&オープンを訴え、その社会的インパクトについての伝道師になっているところは端的に興味深い。
Schmidtは、一時期噂された、オバマ大統領のホワイトハウスでのキャビネット入りは否定しているので、どうやら、Google Ideasを中核にしてインターネットの価値を国際的に訴えるアドボカシーの役割を担っていくようだ。58歳のSchmidtは、若い頃に志した分散コンピューティングの社会的な可能性を実現させる活動に直接関わっていくということなのだろう。
GoogleのCEOを引き継いだLarry Pageが急速にGoogleを総合情報企業に変貌させようとしている傍らで、Schmidtはウェブの社会的意義を訴える。一見すると片やプロ・ビジネス、片やプロ・ソーシャルな動きだが、この両者が根底で繋がったものなのか、それとも両者はバラバラのものなのか。SchmidtとPageの個人的近さの程度を測る上でも、Schmidt(&Cohen)の動きは注目に値する。