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この3月末でFCC(連邦通信委員会)委員長を退任したJulius Genachowski氏の後任に投資会社出身のTom Wheeler氏を指名した。
Telecom Investor Named to Be F.C.C. Chairman
【New York Times: May 1, 2013】
Obama expected to nominate telecom executive Tom Wheeler to chair FCC
【Washington Post: May 1, 2013】
NYTの記事によると、Wheeler氏はどうやら携帯電話ならびにケーブルテレビの世界で今まで情報通信産業に関わっていたようだ。2008年にオバマ大統領の誕生以来、FCC委員長を務めてきたGenachowski氏がシリコンバレー出身でIT業界寄りの立場であったことと比べれば、新委員長となるWheeler氏のホームグランドは従来のテレコム産業寄りといえそうだ。この点は、Washington Postでは、既にヘッドラインで「テレコムロビイスト」と称されている。
となると、この先、たとえばnet neutralityの議論やWi-Fiの整備における周波数の利用方法等の、Genachowski時代からの懸案事項をどのように扱っていくのかに関心が向かう。もっと具体的に言えば、シリコンバレー寄りのウェブ志向の新サービス開発を促す方向に政策の舵を取るのか、それとも、AT&TやComcastといったローカルのインターネット市場を複占している従来のテレコム産業に有利な方向を目指すのか。後者の場合でも、単純にテレコム産業を保護に徹するのか、あるいは彼らにとって新規投資を促しブロードバンドの整備がアメリカ各地で進むようなインセンティブを設定するのか、など、舵取りの方向にはグラデーションがあるだろう。
総じてイノベーションを重視するオバマのホワイトハウスの立場からすれば、新任となる予定のWheeler氏が、前任のGenachowski氏が示した方向を全く逆転させるようなことはないだろうが、ともあれ、イノベーション促進策の実施に当たって、どの産業に重点を置くか、という部分は場合によると大きく変わるのかもしれない。
FCC委員長は一般の閣僚と同様に、上院のヒアリングとその後の承認が必要となるため、その過程で、Wheeler氏の立ち位置を明らかにするような情報も随時公開されていくことと思う。しばらくの間はその点に注意しておきたい。
それにしても、Wheeler氏は、リンカーンが南北戦争時代に電報を使って戦局の掌握と指示を出していたことを描いた“Mr. Lincoln's T-Mails”の著者でもあるという事を知ると、もしかしたら、ここでもリンカーンブームが効いているのか?などと邪推してみたくもなる。