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オバマ、西海岸へ行く: 数学と科学が次代を支える

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State of the Union (SOTU:一般教書演説)で、アメリカ経済を浮揚させるために、イノベーションに焦点をあてた(産業)政策を進めようとしているオバマ大統領がシリコンバレーのCEOとのミーティングを行いに、西海岸に出向いた。

Obama Talked R&D With Jobs, Zuckerberg
【Wall Street Journal: February 18, 2011】

The Mystery of Obama’s Dinner with Tech Executives
【New York Times: February 18, 2011】

Obama meets with Silicon Valley tech elite
【SiliconValley.com: February 18, 2011】

サンフランシスコに着いたオバマ大統領は、有名なベンチャーキャピタルの一つであるKleiner Perkins Caufield & Byers(KPCB)のパートナーを務めるJohn Doerrの私的晩餐会に参加した。

そのディナー参加メンバーは以下のとおり。

- John Doerr, partner, Kleiner Perkins Caufield & Byers
- Carol Bartz, president and chief executive officer, Yahoo
- John Chambers, C.E.O. and chairman, Cisco Systems
- Dick Costolo, C.E.O, Twitter
- Larry Ellison, co-founder and C.E.O., Oracle
- Reed Hastings, C.E.O., Netflix
- John Hennessy, president, Stanford University
- Steve Jobs, chairman and C.E.O., Apple
- Art Levinson, chairman and former C.E.O., Genentech
- Eric Schmidt, chairman and C.E.O., Google
- Steve Westly, managing partner and founder, The Westly Group
- Mark Zuckerberg, president, and C.E.O., Facebook

AppleのJobsやFacebookのZuckerberg、GoogleのScmidtと言うまでもなくシリコンバレーのオールキャストという感じだ。

基本的には、ハイテク企業のCEOが集まっているが、Doerrの他に、Stanford UniversityのPresident(総長)であるJohn Hennessyが参加しているのも興味深い。様々な意味でStanfordがシリコンバレーに深く関与していることの現れだ。大学で起業の元となる研究を行い、実際に起業も支援し、そうして立ち上がったスタータップの経営に携われる人材も同時に育成する。そのような協力体制があればのことだろう。

晩餐会は非公開であったため、何が歓談されたか詳細は不明だが、とはいえ、基本的には、SOTUの内容を、シリコンバレーのCEOらがどう受け止めたかを聞き出し、どのような条件であれば実際に、シリコンバレーの企業群とホワイトハウスの間で連携可能か、などについての意見交換が行われたのだろうといわれている。

会場には、Steve Jobsが参加しており、健康問題への懸念をとりあえずは払拭する形になった。また、日頃ラフな格好でメディアに現れるZuckerbergがスーツ姿で登場したのも注目を集めたようだ(しかし、その様子は就活中の学生のようにも見え、彼がとても若いCEOであることを改めて確認された感じがする)。

このサンフランスシスコでの晩餐会の翌日には、オバマ一行はオレゴンにあるIntelの工場を訪れ、CEOのPaul Otelliniの歓待を受けた。Otteliniのスピーチを受けてオバマもスピーチを行うという構成だった。

President Obama wraps up speech, visit to Intel and leaves Portland
【OregonLive.com: February 18, 2011】

Intelが訪問先として選ばれたのは、OtelliniホワイトハウスのCouncil on Jobs and Competitivenessのメンバーとなるからでもある。

そのOtelliniのスピーチはある意味でオバマのものよりも興味深かった。スピーチのデリバリー(伝え方)はもちろんオバマの方が上手い。Otelliniのスピーチはよくある原稿読み上げ型だ。それでも、その内容はとてもよく出来ていた。

オバマがSOTUでも触れていたように、Otelliniが強調したのは、経済成長のためにはイノベーションが必要であり、そのイノベーションを進めるためには、Math & Science、つまり、数学と科学の訓練を受けた人材が不可欠であることを強調したことだ。

しかも、単にメーカーの研究員としてMath & Scienceが重要だといったのではなく、むしろ、イノベーションに必要な知的能力、思考力の母胎として、Math & Scienceを位置づけていた。

つまり、Math & Scienceの訓練を受け習得することで、critical-thinking(論理的思考力、批判的思考力)とproblem-solving(問題解決力)が養われると指摘した上で、その能力によって、次の四つの役割を担うことが出来るとしていた:

innovator,
thinker,
scientist,
entrepreneur

つまり、イノベーションを起こす人、熟考出来る人、科学者、起業家、という役割をMath & Scienceを学ぶことで担うことが出来る。

いうまでもなく、Scienceには、いわゆるnatural scienceだけでなく、social scienceを含む。いわゆるrigorous(厳密)な思考力を要求される分野だ。

また、四つの役割の中にthinkerとあるのも興味深い。要するに、状況を深く理解し、持てる知識と知恵を総動員して、そもそも何が問題かをあぶり出し、どの問題から手をつけるか優先順位をつけ、実際の対応策を描くようなタイプの思考力を持つ人を、一つのプロとしてthinkerとしているところだ。

いずれにしても、この四つの並びが、IntelのCEOの口から語られたのは面白い。

実際、Otteliniは、優秀な人材は、ハイテク企業や製造業では不可欠と考え、外国籍の人間でもアメリカ企業で働けるよう、ビザのあり方について自説を展開していた(実際、ワシントンDCでロビイングも行っている)。

そういう人物が、GEのImmeltと同じように、実際にホワイトハウスに関わるようになるわけだ。たとえば、インドや中国からの留学生で、アメリカで工学博士や工学修士を取得した人が、そのままアメリカで働いたり、起業出来る環境をつくろうとするのかもしれない。

というのも、アメリカでもBrain Drain(頭脳流出)が今後問題になると考えられているからだ。

だから、アメリカ人でMath & Scienceを扱える人材を増やしながら、外国籍の人間がアメリカに留まるように出来る方向で政策を考える。

この点で参考になるのは、オバマのスピーチの方で、そちらでは、アメリカが科学技術で競合するであろう国としては、中国とドイツが挙げられていた(日本は言及されなかった)。中国については製造業全般での競争力が、ドイツについては、環境関連をはじめとする先端技術の分野についての競争力ということなのだろう。具体的なベンチマーク対象として特定の国を挙げ、そことの競合をどうするかについて策を練ろうとしているわけだ。

サンフランシスコの晩餐会にしても、オレゴンのインテル工場の訪問にしても、極めて具体的な文脈で、SOTUの目標を実現させていこうとするように思われる。

アメリカのトップ企業の経営者と連携しようとする動きは、既に2012年の大統領選を視野に入れているからのようだが、それでも、政策を具体化させていくプロセスとして具体的な訪問と、その意義を記憶にするためにスピーチを行う。そうすることで、初発のモメンタムを得ようとするわけだ。

いずれにしても、Math & Scienceが次代を支える、という発想は傾聴に値する。今後の具体策、とりわけシリコンバレーとの連携がどうなるのか、そして、どれくらい具体的にイノベーションが進められるのか、続報に期待したいと思う。