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Columbia Journalism Review(CJR)で発表された“The Reconstruction of American Journalism”を紹介したNYTの記事。
A Newsroom Subsidized? Minds Reel
【New York Times: October 19, 2009】
当のCJRのレポートは以下を参照。
The Reconstruction of American Journalism
【Columbia Journalism Review: October 19, 2009】
基本的に、アメリカの今の新聞危機の本質は、新聞紙の問題ではなく、報道能力=Newsroomの体力がどんどん痩せ細っていくところにある、という指摘。
そう言っている傍から、NYT自身、100名の人員削減に着手することが伝えられている。
New York Times Moves to Trim 100 in Newsroom
【New York Times: October 19, 2009】
New York Times to Cut 100 Jobs
【Wall Street Journal: October 19, 2009】
単純に人数だけでいけば、アメリカで報道業務に携わる人は、1971年に4万人だったものが、1993年には6万人にまで増えたのだが、それが2009人にはまた4万人まで減っている、という。
71年から93年までの間は、アメリカは決して好景気にあったわけではないので、この間の報道人員の増加は、主にWatergate事件に端を発したinvestigative reportingへの関心の高まりがあったため、とされることが多い。現在、40代から50代のジャーナリストは、Bob WoodwardとWashington PostによるWatergate事件の追及と、それによるNixon大統領辞任、という動きの影響を大なり小なり受けて、報道現場に従事することを選択していたという。
そうした熱意を経営的にサポートするのが難しくなってきたのが、昨今の状況ということになる。私がNYにいた頃は、ちょうどITバブルが弾けた後だったので、ジャーナリストの口から直接、経営陣からのコストカットの指示がだされている話や、そのために海外支局がどんどん閉鎖されている話を聞いたことがある。当時でもそんな感じだったわけで、とすれば、足下の新聞不況の下でコスト削減をしようと思えば、もはや国内の人員整理に着手せざるを得ない。
アメリカの今の報道の問題は、だから、端的に言って、新聞記者の雇用問題にまで行き着いている、というわけだ。
そして、上のCJRの主張は、このまま、Newsroomの人員削減が続けば報道内容の劣化は避けることができないわけで、それを回避するための手段を講じるべきだ、というもの。
この主張自体は、今年に入って随所で主張されていることで目新しいことではない。レポートの中で主張されている回避策も、non-profit化や、ローカルニュースへの政府補助金の要請、など何度も主張されていること。
だから、このタイミングでこうしたレポートがまとめられたのは、新しいアイデアを提出すると言うよりも、ジャーナリズム関係者の間で、NPO化や政府補助の導入もやむなし、というようなコンセンサスを醸成していくことに主眼が置かれているように思う。そうして12月に予定されているFTCのシンポジウムなどで、より現実的な解決案の議論が行われるような状況を作ろうとしているのだろう。
いうまでもなく、CJRを発行しているColumbia Journalism School(CJS)はジャーナリスト関係者の間では最も権威のある機関の一つだからだ(ピューリツァー賞もCJSで選考されている)。
ちなみに、CJS、CJRのモットーは“Strong Press, Strong Democracy”。つまり、頑強な報道機関があればこそ、頑強なデモクラシーが存在しうる、ということ。これは、NYTを擁するNYだからこその理念ともいえるが、とにかく、ジャーナリズムがデモクラシーを支える土台として不可欠だという主張。
だからこそ、Newsroomが痩せ細っていくことは看過できないわけだ。そして、そのためならば、従来ならばジャーナリズムの制約になると信じられてきた政府の補助も受けるのもやむなし、という判断をしようというわけだ。
もちろん、政府からの金銭的独立性を建前として維持したいと考えるジャーナリストが個人レベルでは多いことも確か。そういう人は、フリーランスの道を選択したり、よりadvocacy groupに近いところで活動をしたりする。
そう考えると、CJRの主張は、個人ではなく報道機関の組織的維持の方策を探るところに最大の関心があるのだと思う。
12月のFTC主催のシンポジウム前後の動きにこうした観点から注意しておきたい。