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Google Book Search Settlement: プログラムを書くようにルールメイキングを行う試み

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October 08, 2009 20:06 jst
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Google Book Search Settlementを巡る動きの続報。

Google to Revise a Book Pact by Nov. 9
【New York Times: October 8, 2009】

Google Gets Until Nov. 9 to Revise Book Pact
【Wall Street Journal: October 8, 2009】

10月7日にニューヨークの連邦地裁で行われたヒアリングで、Book Search Settlementの原告・被告の当事者である、Authors’ Guild(AG)、Association of American Publishers(AAP)、Googleが、連邦地裁判事から、Settlement(和解)の修正案を作成するよう命じられた。Googleらは、和解案の確定をできれば年内中(12月下旬)、遅くとも1月上旬には確定させたいため、修正案は1ヶ月後の11月9日に連邦地裁に提出されることになった。

以前にも記したように、今回の和解案は外部からの関心が高く、今回のヒアリングに向けて、外部の企業・団体・個人から都合400あまりの意見が連邦地裁に寄せられたという。

その一つが司法省からの意見。そして、現在修正が確実視されているのが、和解案の中にある、GoogleとAGならびにAAPの間で結ばれる、most-favored-nation status(最恵国待遇)条項。つまり、AGやAAPが他のe-book事業者と契約を交わす場合、同じ契約内容がGoogleに対しても自動的に当てはめられる、というものだが、この条項がある限り、適切な競争環境が整えられず、実質的に先行者たるGoogleの優位性が確定しまう。この点を司法省は反トラスト法的観点から最も懸念している。

Google、AG、AAPは、反トラスト法違反にならぬよう、反トラスト局の意見を尊重しながら、和解案を修正する。既に、司法省の担当者と連絡を取りながら和解案の修正を行っているという報道もあるので、11月9日に提出される和解案は司法省の了解が内々では取れたものになるようだ。

判事の判断で、和解案に反対する者たちに対しては、修正された条項のみ意見を提出するよう命じている。判事としても、いたずらに和解案の確定を先延ばしするつもりはないものとみられる。

*

Book Search Settlementの動きは、公的な合意を作っていくプロセスとして捉えると興味深い。

もともと、AGにしてもAAPにしても、Googleが勝手に本をデジタルスキャンするのがCopyright Law違反であるという理由で訴えていたのが、途中で和解案が成立し、むしろ、Googleを含めた三者が利害共同体として同一スキームを共有することになった。たとえば、三者でBook Rights Registryを設立し、そこで書籍のcopyrightについて管理することになった。最初は反目していたものがむしろ協力関係を築くに至ったわけだ。和解プロセスが、途中から交渉プロセスに変わって、当初は敵対していたものが、利益共同体になってしまった。和解案としてe-bookの一種のビジネスモデルが考案されてしまったわけだ。

この動きに対して、同業他社が異議を唱え、その異議の声が大きくなるにつれ、public discourse、つまり、私人間の問題ではなく、公の、公共的な問題として再定義され、極めつけは、司法省が乗り出すことで、裁判の和解案が、むしろ、連邦政府公認の公共ルールになってしまうというように、議論のフェーズや、和解案の位置づけが一変してしまった。

つまり、結果的に、私人間の裁判の場が、ボトムアップのルールメイキングの場に様変わりしてしまったわけだ。

同時に、この裁判の経過が、結果的に他のe-bookビジネス事業者の動きを加速させたところもある。

たとえば、昨日、アマゾンがKindleの最新版を、アメリカ国内だけでなく、アメリカ国外でも販売すると発表した。

(洋書利用頻度の高い身としては、本の単価は下がる、配送期間は短くなる、購入後本棚の心配をしなくていい、古本屋のことも考えなくていい、といいことづくめで非常にありがたいかぎり)。

このようなアマゾンのKindleの動き、あるいはそれに触発されたBarns & Noble(アメリカの大手書店。日本の紀伊國屋書店のような存在)ら競合のe-book参入、というのも、Googleが具体的にデジタルスキャンを強行したからこそ起こったし、ここまで加速した動きになった。

だから、関係者にとってはやっかいな事件ではあるが、ユーザーから見たら事態の解決を加速させる動きになったという判断も可能だと思う。こういうところは、まずは動いてみるところから始めてしまって、後で、問題点を修正する、とてもアメリカ的な動きだと思う。

もちろん、Googleがユーザーの利益を最終的に裏切る可能性もないわけではないが、たとえば、この点については、Googleは記者会見を開いて、そのようなことはないと公の場で答えている。

Google’s Schmidt and Brin on Books, Culture and Evil-ness
【Wall Street Journal: October 7, 2009】

インターネット上で多くのアプリケーションをGoogleは無料で提供しているが、それに対して、記者からの「今は無料でもいずれ有料にするのではないのか?」という問いに、「Googleには、まだevil room(悪の部屋)はないよ」と答えている。

これが口約束でないという保証もないといえばないのだが、しかし、公の場での誓約を覆せば企業としては社会的死を迎えることになる。むしろ、関係者の不安を払拭するため、タイミング良く記者会見を開いた、と捉える方が適切だろう。

*

アメリカの場合、インターネット関連ビジネスの難しいところは、研究開発資金が必要だから上場しないわけにはいかないが、上場すると様々な投資家の意向に答えなければならない。とりわけ、経済的なリターンを出さないといけない。

そうすると、とりあえずは事業化に踏み出してみて、その後、技術的に問題があれば修正をするし、周囲との軋轢があれば裁判を通じた法的な解決を図る。

インターネットの場合、随所で、サイバー法といわれる領域、つまり、公共的な法律や制度と関わる(抵触する)ところが多いが、それも含めて、まずはやってみて、当局が乗り出してきたらそこで対処する。株主も、連邦政府が乗り出して立法措置をしてしまえば、法令遵守(コンプライアンス)の観点から、そうした処置を受け入れるしかない。

裏返すと、政府当局が乗り出してくれないことには、「公的な利益」といって制動をかけようにも、株主は簡単には納得してくれない。

そうすると、Googleが“Don’t be Evil”というモットーを掲げる限り、むしろ、政府との良好な関係が大前提になってくる。

Google Book Searchを巡る動きの背後にはそうした狙いがあるように思えてならない。

つまり、政府が乗り出すことを見越して、確信(犯)的に公的議論を引き起こすような事態を起こし、それをきっかけにして、連邦政府の介入を、いい意味で呼び込む。そうすることで、何が合法で、何が違法かの、線引きを明確にしていく。

ルールメイキングをあたかもプログラムを書くように進めていく。まずはとにかくひな形のルールを作る。それを公にして、関係者にたたいてもらう。そうして、合意結果としての「法」をつくる。

もちろん、これは、連邦政府を信用していないとできないこと。Eric SchmidtとObamaのスタッフとの密月があればこそ行えること。そう思えてならない。