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この7月にNAA(Newspaper Association of America:アメリカ新聞協会)は、News Sitesの有料化方法について、複数の企業に提案を求めていた。その提案内容について、NAAがレポートをまとめたことを伝える記事。
Google Plans Tools to Help News Media Charge for Content
【New York Times: September 9, 2009】
Google Offers to Help Newspapers Charge for Their Content
【Wall Street Journal: September 9, 2009】
NAAの要請に応えた企業は、以下の11社:
CircLabs, Google, Journalism Online, IBM, Mather Economics, Microsoft, MyWire, NewsNav, Oracle, ViewPress, YouDate
このうち、注目を集めているのが、GoogleとJournalism Online。
Googleは、Google Checkoutをベースに包括的なプランを提案している。
上の記事内でもリンクが張られているGoogleの提案内容を見ると、
ビジネスモデルとしては「有料」と「広告」。
有料化方法としては、「契約(subscription)」と「記事単位支払い(micropayment)」。
こうした形式的なフレームに肉付けをしていくための提案をいくつか行っている。
News Sitesの有料化が成功する上で重要なのは、「価値のあるコンテントの提供」とユーザーにとっての「支払い方法の容易さ」の二つ。
また、Paid-contentの場合は、Free-contentよりも、ユーザーの数が少なくなる可能性が高いので、そもそも、そうしたコンテントが存在することをユーザーに知らしめることが極めて重要であり、Googleは、Search機能やRecommendation機能によって、こうした点での支援も行えるとしている。
Micropaymentについては、Google Checkoutを拡張することで対応する予定で、Google CheckoutをGoogle系のサイトだけでなく広く利用できるようにすることで、ユーザーが様々なサイトで行った支払額を総括し、その上で決済を行う。その際、ユーザーの利用履歴から、適切なクレジットの上限(与信額の上限)も設定できるようにするという。
さらに、News Sitesでは、一般的には、シンジケーションといわれるように、同一の記事が複数のNews Siteで掲載されることがある。その場合も、異なるサイトで掲載された同一記事に対して統一的にmicropaymentの結果を管理できるようにするという。
加えて、広告(主にバナー)についても、Google所有のDouble Clickを利用することで、有料収入とあわせて運用・管理することができるとしている。
このように、さすがは、検索連動広告以外の収入源を求めてやまないGoogleだけのことはある提案。News Siteの運営のうち、コンテント制作を除いた残りの全ての部分を請け負うと言ってもいいほどの提案内容になっている。
ところで、一方の、Journalism OnlineはWall Street Journalの出身者が設立したベンチャーで、既に新聞社と契約を結んでいるという。
Lots of Fee Ideas for Media Online
【New York Times: September 11, 2009】
もっとも、ネットの世界全域にわたるGoogleのスケールの大きさと、技術開発力に裏打ちされたユーザビリティの良さから、Googleの方に分があると考える向きが多いようだ。
そもそも、News Sitesのpaid-content化については、あるサイトで有料化されたコンテントと同一ないし類似の情報を含むコンテントが同じく有料とされていない限り、つまり、無料で提供されているわけではない、ということでもない限り、お金を払ってまでそのコンテント、この場合は記事を消費することはないのではないか、というのが大勢の意見。
そう思って改めて見直してみると、たとえば、WSJの場合、無料と有料の記事が現在は混在しているわけで、その中で有料の記事は、WSJの独自の分析や調査が加わった記事や、かなりその業界のことを詳しく知らない限りは必要とはならないような記事に限られているように思われる。
その一方で、無料のものは、一般の関心がひけるもの、典型的には、企業のプレスリリースに基づいた商品の紹介ものなどが多い。そもそもある企業のプレスリリースなわけだから、検索をかければオリジナルのリリースにも到達できるようなもの。つまり、企業の側からすればPRとしてニュースで取り上げて欲しいようなもの。そうした情報は、当たり前のことながら、どこかのサイトで無料情報として提供される蓋然性が高いので、有料化されることはない。
とすると、無料記事は、実質的に、企業や団体を問わず、PRネタとなるようなもの。有料記事は、当該報道機関による「裏取り」や「分析」を含む、広い意味での「調査報道」ということになるのだろう。
Googleは、有料化の成功の条件として、「価値のあるコンテントの提供」を掲げ、それはGoogleの関わることではなく、News Sitesの運営者が行うべきこととしていたが、実は、この部分が最もハードルの高いところになるように思う。
だから、無料、有料、のコンテントをどのように案配していくか、が第一に、そして最も重要な検討事項になると思う。
そして、そこを何とか突破できた場合は、次はコンテントの価格付け=プライシング、の話になる。そして、プライシングについては、記事の消費のされ方まで加味していくと、「コンテント+その提供方法」ということで、サービス財の提供に近づいていく。
つまり、コンテント単体を物財のように一つずつ売っていくような発想はやめて(意外とこういう発想は新聞関係者には多い。なぜなら、個々の記事にこそ価値が宿ると信じているから。これは、書き手に近ければ近いほどそういう発想に傾きがち)、時間的な接触や、上のmicropaymentの特性を考えて複数のサイトを合わせたパッケージ的利用、というような、「サービス財」として考えていく方が大切になってくる。
首尾良くこうしたところまでいければ、単なるNewspaper Companyではなく、News Service Companyとしていろいろと知恵の出しようが出てくるものと思われる。
いずれにせよ、こうしたGoogle(やJournalism Onlineのような企業)の提案に対して、アメリカの新聞社がどのように対処していくのか。既に経営的にはかなり厳しい状況にまで陥っている新聞社が多い以上、それほど時間的有余があるとは思えない。アメリカの新聞社の今後の意思決定に注目していきたいと思う。