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iPhone 中国へ: Smartphoneの進化加速器としてのChina Market

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August 28, 2009 00:01 jst
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i-Phoneがようやく中国でも販売されそうだと伝えるWSJの記事。

Apple, Facing Competition, Readies iPhone for Launch in Giant China Market
【Wall Street Journal: August 27, 2009】

チャイナユニコム(中国聯通)との交渉の最後の詰めはまだ残っているものの、年内発売開始を見込んでいるようだ。

この記事で圧巻なのは、添付されたiPhoneのfootprint。世界80ヶ国で販売ということは聞いていたが、改めて世界地図で見せられると、驚かないではいられない。北米、欧州の先進主要国に加えて主だったemerging market諸国に対しては既に販路を確保している。Martin Sorrellが答えていたように、欧米の多国籍企業の企業活動の広さを痛感させられる。

同時に確かに、東アジアにぽっかり穴が開いていて、その真ん中に中国市場がある。BRICsのうち、ブラジル、ロシア、インド、が既に販売圏に入っていることを踏まえると、最後に残った最大の成長市場、という位置づけなのだろう。

そういう認識は、何もAppleに限ったことではなくて、たとえばPCメーカーのDellも、中国ではSmartphone市場に参入すると伝えられている。

Dell Developing Phones for China
【Wall Street Journal: August 18, 2009】

いうまでもなく、GoogleのAndroidも、台湾のHTCによって中国市場を目指す。

Taiwan Firm to Offer Google Phone in China
【Wall Street Journal: May 26, 2009】

*

こう見ると、ネットワークの解放と端末の自由化によって、通信端末がもはや国境に制約されない商品になっていることがわかる(もちろん、その前提にはFree Tradeという大きな枠組みがあるわけだが)。

Smartphoneの開発に当たっては、

・ 通信速度の高速化  (通信キャリア)
・ 端末の高度化 (メーカー)
・ 周辺サービス・端末との境界無効化 (アプリケーション提供者)

という関係者の間の力関係を組み替える動きが複数内在しているわけだが、そうした「進化要因」を内包した商品が、世界で最も成長の著しい中国市場に放たれることで、世界中の主要企業間の競争も相まって、さながら、異種交配も辞さず、という感じの、華々しい商品進化がもたらされることになるのだろう。

実際、Apple自身、PCとsmartphoneの境界機種として、tabletの開発に着手しているという。

Jobs, Back at Apple, Focuses on New Tablet
【Wall Street Journal: August 25, 2009】

同様のことは、他のメーカーも着手済み、ということだと思う。

*

建築家のレム・コールハース(Rem Koolhaas)に、“Great Leap Forward”という、中国の経済特区の成長をまとめた著作がある。これは、コールハースがHarvard Design School(デザインといっても要するに建築学科)で進めた研究調査内容を整理したもの。

コールハースはその中で、中国の開放政策が深圳のような田舎町を、いかに急速に巨大な都市へと変貌させていったか、膨大な資料を引用しながら描いている。経済特区の変化は西洋の都市政策や都市計画の歴史的経験を全く無視するような速度で進展し、それこそ、あっという間に巨大な都市を地上に誕生させてしまった。

それは、同時に、いかに資本の力は凄いか、ということの現れでもあるのだが、その結果、建築様式も、異なる時間・空間にあったはずの様式が一堂に集められ、およそ西洋の街ならば隣接不可能な建築様式の建物が仲良く隣り合っている、というような風景がそこかしこで見られることになった。もちろん、一つの建築のなかに、複数の様式がフュージョンされてしまうことも多く、なかばキメラ的(人によっては悪趣味とも評するであろう)建築まで登場していた(アメリカでは、ラスベガスがそうした都市としてかつて紹介されたことがあったが、規模が段違い、桁違いだという)。

こうした、ありとあらゆる素材を集め、文字通り順列・組合せの許す限りの様式を考案し、それを実際の建築物として地上に実現させてしまう中国の様子を、コールハースは描いていた。

だから、世界中のIT関連企業が、smartphoneの可能性を信じて、中国市場に参集している様を見ると、コールハースが描いたような世界が、中国のsmartphone市場でもまた起こってしまうのではないかと予感してしまう。

smartphoneはこれから本格化する商品で、いまだイメージが定まらないところは多々ある。だから、単に「技術的にこれができる、あれができる」という実現性だけでなく、「smartphoneをこれからどうしたいのか」「PCも含めて端末をどうしたいのか」「そうしたツールを使ってなにがしたいのか」、というような、希望・願望・欲望までも、分け隔てなく呼び込んでしまう可能性がある。

そうした人の想像力というという資源までも、技術的可能性とともに、中国市場に投げ込まれることで、その中で、なにか想像を絶するようなものが生まれ、先進国市場であればそんなスピードでは実現することなど期待できないような出来事が起こってしまう、そんな予感がある(要するに「なにかとんでもないことが起こるんじゃないか」という予感)。

とりわけ、欧米人については、彼らが持つオリエンタリズムの視点、つまり、自分たちに不可解なものは東洋(オリエント)が起源であり、翻って、東洋の中にこそ不可解だが何か西洋人の理解を超える事態が生じうる、と素朴に信じてしまう視点、によって、以上のような想像(空想)は、欧米企業のビジネスマンをには、わりと本気で信じられてしまうところがある(ジム・ロジャースやマードックがいい例)。

(日本や韓国のブロードバンドの成功を語るとき、アメリカ人ですら、一種のオリエンタリズム的視点で語りがち。以前、NYのある講演会で、現職の上院議員が、東アジア諸国は、アメリカと違って、専制的な伝統をもつ、中央集権的な国家だからインフラ整備の政策が即導入できるのだ、と語っていたのが思い出される)。

だから、iPhoneの本格参入がきっかけになって、smartphoneを依り代にした、テクノ・オリエンタリズムが中国で浮上し、そうした「気分」も後押しして、実際にsmartphoneの進化が加速された形で実現してしまう、そういう事態が生まれてしまう可能性は否定できない。

そう考えると、むしろ、今後、ハリウッド映画あたりがこうした事態をどうやって物語のフォーマットに落としていくのか、という方に注目してもいいのかもしれない。

いずれにしても、iPhoneの中国進出には注目しておきたい。