American Prism XYZ

FERMAT

297

latest update
January 07, 2009
18:00 jst
author
junichi ikeda

print

contact

297

カリフォルニア州知事を目指すMeg Whitman

latest update
January 07, 2009 18:00 jst
author
junichi ikeda

print

contact

eBayのWhitmanが2010年のカリフォルニア州知事(ガバナー)選への出馬を目指すようだ。(記事はたとえばここ)。

既にeBayをはじめ、P&GやDreamworks Animationの取締役をいずれも辞任しており、この先、数週間をかけて、おおよそ2月中旬を目処に立候補宣言をする模様。

Meg Whitmanは、マッケインの副大統領候補にも挙がっていたようにGOP支持者。そうして、任期が切れる、シュワルツネッガー現知事の後任としての選出を目指すようだ。

ビジネスから政治へのステップアップであるし、首尾よく当選すれば、2012年は難しいとしても、2016年以後の大統領選には、GOPの候補者として名が上がる可能性も高い。

2008年の大統領選では、デモクラットの、オバマ対ヒラリーの予備選を通じて、初のアフロ・アメリカンの候補か、初の女性の候補か、という争点で騒がれたように、女性大統領の誕生に対する期待も高まっている。

少し気は早いが、GOPの女性大統領候補としては、Whitmanの他に元HPのCEOであるCarly Fiorinaもしばしば名前が出される。彼女も、カリフォルニア州の知事選、もしくは、上院議員として出馬が噂されているようだ。

2008年の大統領選は珍しくデモクラットもGOPも上院議員から候補者が選出されたが、それ以前を見ると、むしろ、知事=ガバナー出身者が多い。現職大統領のジョージ・W・ブッシュはテキサス州知事、ビル・クリントンはアーカンソー州知事、レーガンはカリフォルニア州知事、といった具合。

知事経験者が大統領に多かったのは、大統領ならびにホワイトハウスを頂点とした大統領府が巨大な官僚機構であり、そうした巨大組織のマネジメントにふさわしい実務経験が必要とされるからだ。知事としての実務経験が生きるわけだ(この点、オバマのexecutiveとしての経験のなさをとりあげて、ジュリアーニが「オバマの実務経験?コミュニティ・オーガナイザー?(はぁ?)」という感じで、しばしば揶揄していたのを思い出す)。

以前は、知事のキャリアパスとしては、当該州でロイヤー(弁護士)の資格を取得した上で当該州の裁判所検事や判事などを経て、地元の政界・財界との関係を強固にした上で出馬というのが多かった(ビル・クリントンが確かこのパタン。知事ではないが、巨大都市として小さな州政府よりも大きな市政府をもつニューヨーク市で市長を務めたジュリアーノもこのパタン)。

もっとも、90年代以降は、民間企業のCEOを務めた人物が知事になるケースも出てきている。たとえば、2008年のGOPの大統領候補者の一人であったミット・ロムニーがそうで、ベイン・キャピタルを率いた後、マサチューセッツ州知事を務めた。

従来、ビジネスマンから政界に入るには、選挙ではなく大統領による政治任命による閣僚入りが主流だった。これは、ゴールドマンサックスのCEOを経てクリントン政権の財務省長官を務めたロバート・ルービンが典型。

それが直接選挙に打って出るようになったのは、一つには、規制緩和、民間活力の活用、という流れで、巨大民間企業の経営経験が直接評価される素地ができたこと。高名な経営学者であるヘンリー・ミンツバーグが指摘するとおり、たとえば、MPA(Master of Public Administration)のような専門職学位の誕生は、MBAの流儀をかなりの部分取り入れている(なお、日本の公共政策大学院というのは、法科大学院の誕生によってその枠組みからはじかれてしまった法学部政治学科のような組織が母体になっているケースが多いようなので、アメリカの同種の大学院とはスキルや動員される知的伝統の点で随分異なるようだ)。

ビジネスマンが直接知事選に出るようになったもうひとつの理由は選挙資金の調達。90年代以降、マスメディア活用型の選挙が当たり前になり、メディアバイイング費用がかさむようになってきたため。同時に、CEOの高収入路線も80年代後半以降定着してきたため、ファンド・レイジングをして回るよりも、まずビジネスで成功して選挙資金を自らつくる、というパスも現実的になってきたからだ。

今回の、Meg Whitmanの出馬(見通し)も、こうした流れに乗っている。

そして、個人的に注目したいのは、彼女が、eBayというITセクターの出身者であることだ。

今回の大統領選でわかったことは、インターネットが強力な政治活動マシンになりうる、ということ。そして、これは、特にアメリカで重要なことだが、インターネットによる有権者へのアクセスは、州を越えて、一元的に管理・統御することが可能なところだ。また、支持者の支持の声を州を越えて影響を与えることも可能だということだ(もちろん、ファンド・レイジングの点でも強力なツールになることはオバマ選挙チームが実証済み)。

Whitmanが出馬を考えているカリフォルニアは、全米で人口数の最大の州であり、伝統的には大統領候補にはデモクラットへの支持が多い。この傾向を、かつてのレーガン同様、カリフォルニア州知事の経験という事実でおさえれば、大統領選の基礎票としては極めて大きい(今回のオバマは、カリフォルニア、ニューヨーク、イリノイ、という、テキサスを除く、巨大州での勝利を早期に確実にしていたので、南部を攻めることが出来た)。そして、カリフォルニアの支持者の力をいわばレバレッジして、全米の支持者へのアピールに変えていく、という手がある。

カリフォルニアのような巨大州の場合、そこでの統治上の問題点は、あまりにもシビアで現実的であるため、知事の処方箋はなべて中道の、プラグマティックなものになる傾向がある。党派性よりも、現実的な解の提供の法が重要視されるし、それがPopular votesの獲得=支持につながるからだ。現職のシュワルツネッガーもそのように捉えられている。そして、こうした、プラグマティックな統治姿勢が必要な点からも、ビジネス・エリートに注目が集まりやすくなる。

アメリカの選挙は、日本のそれと違って、一定の時間が経てば必ずやってくる。議院内閣制では、選挙の実施は政局に大きく左右されて予測がたたないが(それがゆえに、公示から選挙まで1ヶ月間という、バタバタの短期決戦になってしまうが)、アメリカの場合、選挙が負けた翌日から次の選挙を目指した活動がスタートする。オリンピックと全く同じ感覚だ。

Meg Whitmanの動きは、今回大敗したGOPの立て直し、という点でも注目したい。