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今週のBusinessWeekで、Columbia Law SchoolのTim Wu教授が大きく取り上げられている。
記事自体の紹介によれば、Tim Wuが提唱している、モバイルにおける“net neutrality”の考え方が、Googleのモバイル参入を後押しした、ということ。
インターネットの世界と違って、アメリカの携帯電話業界は、旧ベル系の携帯電話会社によって牛耳られているけど、かつて、固定系の電話網の上でデータ通信事業が産み出されるのに貢献したような、オープンな環境を創っていくことが大事だ、というのが、彼の主張の流れ。
分割されて競争環境が激しくなったとはいえ、ベル系大手(ベライゾンやAT&T)は典型的な東海岸の、ガースナー前のIBMのような官僚制的企業体、企業文化で、それに対して、Googleなどのシリコンバレー組は、ベンチャーキャピタルと手を結んだ、徹底した起業家マインドの文化で、Tim Wuは西海岸に与している、ということ。
Tim Wuの授業は、コロンビア大学に留学したときに取っていて、当時から、この人、今後、注目浴びるんではないか、と思っていたので、BusinessWeekの記事を見た時には、妙に納得していた。
当時、Tim Wuの所属はまだバージニア大学で、コロンビアにはvisiting professorとして半年だけ来ていて、ちょうどそのタイミングで、彼の授業を取ることができた。コロンビアの後は、シカゴとスタンフォードに同じようにvisiting professorを行ってから、昨年から、コロンビアの正教授に着任した。
日本でも有名なローレンス・レッシグスタンフォード大学教授から、インターネット系の法律(サイバー法?なのかな)の中核的advocateとして、バトンを手渡された感じで、しばらくは、この業界の重鎮になっていくのだと思う。
確かに、ハーバードの学生の時にレッシグの薫陶に触れて、その後、シカゴ大学教授でシカゴの巡回裁判所判事であるリチャード・ポズナーのクラークを務めて、コロンビアで、アメリカのコピーライト・ローの権威で、最高裁判事のギンズバーグの娘でもあるギンズバーグ教授のグループに入ったら、インターネット×知的財産法の分野では超一流のラインに乗ったということでもある。
ただ、記事でいうFreedom Fighterというのはちょっと大げさかなと感じている。というのも、コロンビアの中であった、教授同士のディスカッションやディベートの場では、Tim Wuはどちらかというと穏当な保守的路線だった印象があるからだ。むしろ、Freedom Fighterと呼ばれるのにふさわしいのは、EFFの法律顧問も務め、Open Source Movementの推進者の一人でもある、Eben Moglen教授だと思っている、彼の方が、遙かに過激に自由主義者であったから。法哲学も修めたMoglenと比べると、Tim Wuの方がより現実的で、その意味で、より産業主義的な考え方をしていたように思う。
だから、この先、彼らの間でどのように議論が交わされていくのか、とても楽しみではある。
しかし、それにしても、東海岸の保守的な風土で、革新を旨とする西海岸的な考え方、あるいは、彼の出生から来る、オリエンタル的な考え方、多文化主義的考え方、を受け入れるコロンビア大学というのも、やっぱり、リベラルなところで懐が深いなぁ、と思う。
ここで、このネタにつなげると、いささか牽強付会のそしりを受けるのかもしれないが、バラック・オバマに伴う多文化主義的トーン&マナーに通じる要素をTim Wuの中にも発見できるのだと思う。
その意味で、肯定的な意味でいうけど、アメリカは、今も、現在進行形で、変動する国なのだと思う。
(といっても、やっぱり、母校のことがネタになったり、自分が取った教授が有名になったりすると、単純にうれしくなる自分がいることも認めておきます。)