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昨日(2025年10月27日)の都心は、トランプ訪米を控えて厳戒態勢が敷かれていた。幹線道路の要所要所に警官隊が配備されていただけでなく、港区や千代田区、中央区との都心3区では、小さな脇道に入る角にも警官が立っていた
米軍のレジデンスがあり、ヘリコプタの発着も頻繁に生じる六本木では、首都高周辺は真剣に厳戒態勢が取られていた。もちろん、だからといって、歩行者が突然、職質を受けるという、かつて留学時にニューヨークで見たような光景は起こっていなかったようだけど。
厳戒態勢が敷かれるのは、先日組閣されたばかりの高市内閣からすれば当然のことで、組閣直後のアメリカ大統領の訪米は、それがトランプでなくても、新政権のアピールにはもってこいだからだ。とても良く理解できる。
そんな感じで迎えた翌日28日の朝、いつも通り、アメリカのニュースを見ていた。アメリカ時間では27日夜に放送されたニュースでは、もちろん、トランプ訪日のニュースが取り上げられ、その様子を、普段ニューヨークからレポートしているNBCやABCの記者たちが東京から中継をしていた。
ただ、その報道のほとんどは、トランプがこの後向かう中国のことばかりが挙げられていた。端的に、随行した記者たちも東京にいるのに、日本のことに言及されることはなかった。そういう意味では、首相の交代や内閣の交代があって良かったのかもしれない。それがなければ、そもそもニュースとして伝えることが日本にはないということになりそうな勢いだった。文字通りの「表敬訪問」だ。
もちろん、いまさら世界経済なり国際関係における中国と日本のプレゼンスの違いを指摘する必要もないのだが、しかし、改めて、その変化に驚いた。
そう思うと、同じタイミングでNetflixで公開された映画『ハウス・オブ・ダイナマイト』はなかなかそのあたりのアメリカの事情をよく表していたのだなと感じた。
『ハート・ロッカー』や『ゼロ・ダーク・サーティ』の監督であるキャスリン・ビグローは、どこから発射されたか不明の大陸間弾道ミサイル(ICBM)がアメリカを襲う十数分の混乱を、これまでの作品同様、限りなく軍事ドキュメンタリーに近いタッチでフィクションとして描いていた。
どの国が発射したか不明と書いたけれど、少なくともそれが東アジアであることは明らかで、そのため作中では、ロシアか中国か北朝鮮か、という疑念の下、嫌疑をかけられた国を含めて密度の濃い外交のやり取りも行われていた。当事者と思しき東アジア諸国だけでなく、パキスタンやイランなど諸国も、アメリカ本土に着弾した後を見越して、それぞれ自軍のスクランブルを始めており、ICBMの一発で世界が一気にハルマゲドンに突入しかねない様子も描かれていた。
かように、東アジアはアメリカの国防上、感化できない火薬庫であることを知らしめる映画だ。そして、その只中にあるのが東アジアの縁にある島国日本、ということになる。
1980年代半ば、「ロン・ヤス関係」といわれた、レーガン大統領と中曽根首相の時代に、日本は「不沈空母」である、と言われたことがあり、物議を醸したことがあったが、昨今の、地政学的緊張が高まるなか、再びそう呼ばれる時代がやってきそうな印象をもった。東南アジアを手始めにアジア諸国を歴訪するトランプ大統領が、日本に3日間も滞在するという事実が、そうした認識を新たにさせる。要するに、ここが最前線である、という世界観だ。
この10年で国際環境は本当に変化したことを確信させられた。