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投票日直前の〈シュレ猫〉状態の2024年大統領選、最後の雑感

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November 05, 2024 18:45 jst
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今日、2024年11月5日は、アメリカ大統領選の投票日。

といっても、アメリカ(東海岸)と日本で、時差が14時間あるので、アメリカの動きは半日遅れになるのだが。

それに投票日といっても、その夜に全ての開票が終わるわけではない。

特に、激戦州7州――ペンシルヴァニア、ミシガン、ウィスコンシン、ノースカロライナ、ジョージア、アリゾナ、ネヴァダ――については、10月からずっとトスアップ状態、すなわち、カマラ・ハリスとドナルド・トランプのどちらも決定的な優位に立てていない状態にあるため、開票が終わっても再集計の要望が出されることは必至。そのため、投票日の翌日や翌々日でも終了は難しいと見られている。

大方の予想では、日曜日の11月10日には、一応の結果が出るのではないかと言われているが、それにしても、あくまでも見込みでしかない。

ということで、投票日の11月5日は、文字通り、どちらが勝ってもおかしくない〈シュレ猫〉状態にあるので、今のうちに、今年の大統領選を見てきて気になったことを思いつくまま書き留めておくことにする。


まず、なにはともあれ、今年の大統領選は事実上、バイデンが辞退しカマラを後任に指名、というよりも「推薦」した7月末から始まった。そのためわずか100日あまりの選挙戦でしかなかった。

最終的に激戦州ではトスアップ状態にあると先ほど書いたけど、これはカマラ・サイド、民主党サイドから見たら、かなり奇跡的な出来事だといえる。

なにしろ、6月の時点でのバイデンの人気の無さ、加えて、それまでのカマラの影の薄さから、バイデン降ろしを敢行した上でカマラを後釜に据えるというのは、正気の沙汰とは思えなかった。

6月のディベートの結果、バイデンではダメだ、という声が高まるのは、まぁ、理解できなくはなかったけれど、だったら代わりになるのは、カマラではなく、他の候補者、たとえば、ミシガン州知事の「グレッチ」や、ペンシルヴァニア州知事のシャピロ、あるいは、カリフォルニア州知事のニューサムあたりが浮上すると思っていた。

というのも、ひとつには、カマラのバックグランドは、検事、司法長官、上院議員と、一度も「統治」の実務に就いたことがないから。バイデンの代わりに大統領選を争うなら、州知事として統治実務についたことがある人のほうが適任だとその頃は思っていた。

もうひとつは、予備選なしにいきなりカマラがバイデンの代役になるのは、さすがに、デモクラシーが大事、と主張してきた民主党としてどうなの?と思ったから。つまり、簡単でもいいから、候補者を立てて投票によって決めるべきだ、という考え方。これは当初、バラク・オバマも言っていたことだった。

だが、知っての通り、結果は、こうした懸念をすべて吹き飛ばして、あっという間にカマラに決まった。党大会で投票する代理人をすべて抱き込んでの勝利。同じ頃、“Kamala is Brat”やココナッツツリーのミームが流れて、いつの間にか、カマラはバズりの女王のようになって、気がつけばビヨンセの『フリーダム』がキャンペーンのテーマソングになって、あれよあれよという間に人気者?になっていた。

正直、今でも、この頃のカマラの急変ぶりは疑問で、これは後日、選挙後の裏話秘話として語られるのだろうと少し期待している。バイデン降ろしを画策したカリフォルニア民主党の面々が、ハリウッドやエンタメ業界に手を回したからなのか?

そもそもバイデン降ろしを真剣な選択肢とし捉えるようにさせたのも、ジョージ・クルーニーがニューヨーク・タイムズに寄稿したOp-Edからだったのだから、ハリウッドリベラルはやっぱり関与しているのだろうな、と思っている。そうでなければ、選挙戦終盤のリベラルなセレブが続々とラリーに現れることもなかったのではないか。


いま、カマラに候補が変わったときの、カリフォルニア民主党やハリウッド勢の動きについて触れたけど、3ヶ月あまりの短い選挙戦を通じて、特に後半の様子を見て驚いたのは、オバマ夫妻の影響力の大きさ。

特に、ミシェル・オバマの「女神降臨」力は半端なかった。というか、ミシェルのスピーチの上手さには舌を巻いた。確かにこれなら、バラク・オバマが8月のDNCで、「ミシェルの後にスピーチをする愚か者は自分くらい」と言ったのも頷ける。ミシェルとカマラが同じラリーに登場すると、完全にミシェルがカマラをくっていた。これなら、バイデン降ろしのときに、トランプ陣営が一番怖れた候補者がミシェルだったというのも納得。

ともあれ、いまだに続くオバマ夫妻の影響力の大きさに改めて気付かされたのが、カマラの選挙戦だった。

今回、トランプが3度目の大統領選に臨んだことで、もっぱらこの8年間が「トランプの時代」だったと振り返られることが多かったが、このミシェルとバラクの健在ぶりを見ると、さらに8年遡って、2008年からずっと「オバマvsトランプの時代」だったと総括してみたくなる。

そもそも、トランプが共和党からの出馬を決めたのは、オバマの大統領時代のコレスポンデンスディナーで、オバマが会場にいたトランプのことをディスったことから始まったわけだし。といっても、なぜオバマがディスったかといえば、トランプが、オバマはアメリカ生まれではないと、バーサリズムを広めていたからなので、先に仕掛けたのはトランプだったのだけど。

ともあれ、オバマとトランプの間の確執が、結局、2010年代以降のアメリカを決めたのだなと思うと、真面目に薔薇戦争が繰り広げられたことになる。

この「オバマvsトランプ」は、いつかそう遠くない将来、きちんと書いてみたいとは思っている。個人的には、『ポスト・トゥルース アメリカ』で書いた「オバマとトランプは似ている」という見立ては間違っていなかった、ということなので。

望むらくは、トランプが負けて完全に一息つけるようになってからと思っているけれど。どうなることやら。本当に接戦なので。


そういう意味では、投票日直前の土壇場で発表された、レッドステイトで確定と思われていたアイオワで、カマラがトランプを「47% vs 44%」で3ポイント、リードしているという調査結果が、実際にどうなるか、気になるところ。

高齢の女性と、インディペンデントの女性がカマラ支持に動いた、と説明されていたけど、それを鵜呑みにするなら似たような環境である、激戦州のウィスコンシンでも同様の結果が出るのかもしれない。それだけでなく、同じくレッドステイトのカンザスも、もしかしたらカマラ支持で青くなるのかもしれない。

もしもそうなるなら、アメリカの地理的中心でもあるハートランドは、国境問題よりも、女性の権利の問題に敏感になった、と後で分析されるのかもしれない。

スイングステイトとしては、完全にブラインドサイドになるので、その結果は大いに気になるところ。といっても、その顛末は多分、2日後には明らかになっているのだろうけど。

でもふりかえれば、2020年のときも、レッドステイトと思われていたアリゾナとジョージアが青くなったのだから、サプライズは起こり得る。

さてさて、どうなることやら。

投票日直前だからこそ、こんな呑気なことも書いていられるのだけどね。