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FCCがnet-neutrality ruleを可決した。これによって、アメリカでは、インターネットがpublic utility、すなわち、公共サービスないし公共インフラとして位置付けられ、従来の電話に課せれられていた「中立性」が求められることになる。
F.C.C. Approves Net Neutrality Rules, Classifying Broadband Internet Service as a Utility
【New York Times: February 26, 2015】
この場合の「中立性」とは、インターネット上のトラフィックの性格を問わない、ということだ。電話事業者は「コモンキャリア」として位置付けられ、電話の内容や受信者・発信者の関係には関与せずに、電話サービスを提供していた。同様の振る舞いが、インターネット接続事業者、ブロードバンド事業者にも要請されることになる。
このルールは、FCC委員長のトム・ウィーラーが、オバマ大統領=ホワイトハウスの強い意向を組んで2月初めに立案したもので、今回、ウィーラーを含む5人のFCC委員のうち、民主党系の3人が賛成、共和党系の2人が反対を示し、3対2で可決された。
この動きは、インターネットをpublic utilityに位置付けないままで導入した旧版のnet-neutrality ruleが裁判所で無効と判決された結果を受けたものだ。その裁判でも、FCCの権限の範囲では、電話と同様にコモンキャリア的な位置付けがなされないままではルールは無効とされていた。その判決に素直に従った結果といえる。
もちろん、このルールはあくまでもFCCという独立行政員会の定めたルールにすぎないので、その上位機構にあたる連邦議会が、このルールを無効にする法律を通過させれば無効にすることができる。現在の連邦議会は、昨年11月の中間選挙の結果、上院・下院がともに共和党が多数派を占めているため、この方向も全くないとはいえない。
ただし、今回のルールの導入には、ホワイトハウスが導入に向けて強い意向を示したこと、何人かの有力議員は現在、2016年の大統領選への立候補を検討しており、表立ってIT業界(この場合は主にはシリコンバレーの企業群)を敵に回したくないこと、などの事情から、法案の提出にまで至るかどうかは分からない。
上院・下院ともに議会が共和党優勢になったため、むしろホワイトハウス(大統領府)は、拒否権発動をちらつかせることで、議会との対決姿勢を明確にしているからであり、その意味では、前会期までは多数派であった上院の民主党メンバーの役割がホワイトハウスに移ったともいえる。ホワイトハウス側としては、インターネット上のプライバシーを、アメリカ市民の権利の一つとして扱うとする法案の提出を連邦議会に促しており、IT業界が民主党支持から離脱しないよう、力を入れているようである。このようなホワイトハウスと連邦議会の関係から、今しばらくは、通信法の改正などの大鉈が振るわれるようには思われない。
もちろん、ルールの有効性について、ルールに反対する既存ブロードバンドインフラ事業たる通信事業者やケーブルオペレーターが、裁判所に訴える可能性はある。これは、今後の動きを気にかけたい。
インターネットをどう政府が監督するか、つまり規制を入れるかどうかについては、EUが先行している。その動きに、アメリカもある程度応じようとしているようだ。ホワイトハウスがプライバシーを取り上げるのもその現れの一つだ。この点では、たとえば、right to be forgotten(忘れられる権利)のような、欧州の動きをどうアメリカ社会が受け止めるのか、という流れと合わせて考えてみてもよいのかもしれない。
一つ補足しておくと、事業者側が規制の導入に反対するからといって、彼ら自身がまったくの無法状態でよいと思っているわけでもない。可能な限り自主的な業界内ルールで対処したいと考える。ただし、インターネットが水や電気のように生活の必需品となってしまった現状では、何らかの公的なルールが、第三者によって提示されることが必要だという段階にまで達したということなのだろう。