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GoogleのExecutive ChairmanであるEric SchmidtがThe Economist Groupのボードメンバーに着任することが発表された。The Economist Groupは金融経済誌のThe Economistを発行しており、世界の経済界に多大な影響を与える存在だ。
Eric Schmidt joining the Economist is a feather in London's cap
【The Independent: November 14, 2013】
今まで折にふれて記してきたように、Schmidtは、GoogleのCEO職をLarry Pageに渡して以後、インターネット全体のエヴァンジェリストとして活躍することが増えてきた。New YorkにGoogle Ideasというシンクタンクを開設し、Foreign Affairsを発行するCouncil on Foreign Relationsとも関わり、インターネットの国際的展開に伴う各種国家間の調整事項に関わるようになった。北朝鮮におけるインターネット事情の視察に出かけたり、先日も香港でインターネットに関わるフォーラムに参加したりと、アメリカ国外での活動も目立ってきた。Google IdeasのJared Cohenとともに“The New Digital Age”を著し、今後のウェブ社会の有り様についても自説を開陳している。
今回のThe Economist Groupのボードへの参加も、その一環として考えることができるだろう。何しろ、The Economistは、Financial Timesとともに、イギリスが誇る金融経済情報誌であり、各号の記事はもとより、あるテーマに即してまとめられたSpecial Reportは、多国籍企業の経営陣や各国政府の財政担当者、政策立案関係者に大きな影響を与えている。
実際、以前、留学した折に、授業の初日に、ファイナンスの教授が開口一番、FTとともにThe Economistを購読して毎週読みなさい、と言われたのを思い出す。ウォール街のあるNYでは、Wall Street JournalよりもFTやThe Economistの方が、金融や経済、産業に関する国際的な動向を理解するために役立つと思われていたわけだ(WSJの情報源がウォール街の動向であるのだから、インサイダーであるウォール街の金融関係者からすれば当然の選択なのだが)。
特に、The EconomistのSpecial Reportは経済界から高く買われていて、IT業界ではBill Gatesが世界の動きを知るためにThe Economistを読んでいると語っていた。Eric Schmidtも、Bill Gates同様、The Economistの愛読者であったという。ロンドンのシティが世界の金融センターであり続ける背後には、情報の分析と解説、その頒布、を行う金融情報セクターがある。
もちろん、今回のSchmidtとThe Economistとの接近に対して、ここのところ続いた、ウェブ企業とメディアとの接近の動きの一つと捉える向きもある。AmazonのJeff BezosがWashington Postを引き受け、eBay創立者のPierre Omydiarが新たにジャーナリズムサイトを立ち上げようという動きに続くもの、という見方だ。メディア企業、ジャーナリズム企業が、ウェブ時代の中でどう振る舞っていくのか、そのような意思決定の場面で、Eric Schmidtが重要な役割を果す場面も、今後はあるのかもしれない。AndroidがスマートフォンやタブレットのシェアナンバーワンのOSとなる中で、ウェブパブリッシング、デジタルパブリッシングにおけるGoogleの地位がAmazonやAppleに劣らず高いものになりつつあるからだ。
とはいえ、そのような直接的なウェブとメディアの連携の話以上に気になるのが、GoogleやApple、Amazon等のアメリカ発のウェブ企業によって進められている世界中のデジタル化の動きに対して、アメリカ以外の国々がどのようにその趨勢を受けとめるのか、そのオピニオン形成においてThe Economistが与える影響力だ。
というのも、タイミングよく、現在発売中のThe Economistの中で、スマートフォン等の普及によってデジタルカメラがどこにでもあることで生じる「人々による監視社会」が取り上げられているからだ。
The people’s panopticon
【The Economist: November 16, 2013】
この「カメラ=デジタル視覚が遍在する」社会におけるプライバシーの保護は、Google Glassのようなウェアラブルコンピュータにとって今や重大なテーマになっている。既にGoogle Street Viewに対しても、ヨーロッパ諸国では根強い抵抗が示されている。
このような抵抗は、高じれば具体的な法制定の手続きにまで繋がる。そして、ヨーロッパで検討された法制定=ルールメイキングの動きは、国際的にも大きな影響力を持つ。「とりあえずやってみて、何か不都合があったら司法や立法で対処する」という傾向から、アメリカの法体制には、一般的に、見切り発車とそれによって生じた事実のルール化、という特性があるのに対して、ヨーロッパの動きはそうした拙速な動きを諌める傾向がある。むしろ、最近では、そのような役割分担が大西洋の西と東で暗黙のうちになされているようにすら思える時がある。
したがって、インターネットの国際的なルールメイキングを踏まえると、ヨーロッパの動向は無視できない。そう考えると、SchmidtがロンドンでThe Economistのボードとして活動することの含意は非常に大きいように思われる。シリコンバレーを代表して、インターネットのエヴァンジェリストとして、ヨーロッパのクオリティペーパーと関わるのだから。その意味では、エヴァンジェリストというよりも、むしろ、生粋のエンジニア&ビジネスマンとして、インターネットをヨーロッパに売り込みにいこうとしている、という方がいいのかもしれない。
今回のボードメンバー就任は、Schmidtにとっても、アメリカ国外の企業で初の経験だという。その点でも、彼が今後、具体的にどのような振る舞いを行うのか、注目したい。ロンドンは、欧州における中心都市の一つであるだけでなく、イギリス連邦(The Commonwealth)を通じて旧英領諸国にも政治的な影響力を持つ。インドや香港、南アとのつながりもある。もちろん、シティを通じてオイルマネーの環流もありアラブ諸国とか変わってきた歴史もある。
このように世界のヘソの一つであるロンドンにおいて、シリコンバレーやNY、あるいはワシントンDCとは違って、Schmidtがどのような振る舞いを行うのか。おそらくは、ウェブやメディアに留まらない、より大きな動きにも接続するのではないだろうか。大いに気になるところである。