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ワシントン政治の台風の目となるMichael Bloomberg

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ニューヨーク市長のMichael Bloombergの動きが、ワシントンDCの連邦政府の動向に強く影響を与え始めているとする、Politicoの記事。

Bloomberg’s Washington footprint explodes
【Politico: January 29, 2013】

Michael Bloomberg: Joe Biden has ‘set of balls’
【Politico: January 29, 2013】

今まで何度も触れてきたことだが、Bloombergは、証券トレーダー用の情報端末を開発して事業として成功を収め、ニューヨーク市長に立候補し、当選、現在は三期目の最後の年を迎えている。

企業家であり、政治家であり、資産家である、という複数の顔を使い分けて、現在のアメリカの社会的変化に影響を与え始めている。情報端末から始まった事業は金融・経済情報を中心としたメディア企業体となり、金融業界や実業の世界に影響を与えるだけでなく、広く社会的意見の形成にも関わるようになってきた。

その事業で得た資産の活用先としてフィランソロピー活動に深く関わっている。最近では、母校であるジョンズ・ホプキンズ大学に多額の寄付をしており、寄付総額として10億ドルを超えるという。

Michael Bloomberg Becomes The First Person To Donate $1 Billion To A Single School
【Business Insider: January 26, 2013】

このようなフィランソロピーだけでなく、自らスーパーPAC(政治献金委員会)を設立し、政治献金を通じて連邦議会の政治家にも影響を与えている。上の記事にある通り、ロビイストも雇い、特定の政策――記事中では、銃規制、同性婚、移民、インフラ、などが主な争点として指摘されている――について、党派を越えて賛同する政治家にアプローチしている。Bloomberg自身は、インディペンデントの立場をそもそもとっているため、民主党にも共和党にも現在のところアプローチできる。

そして、自らニューヨーク市長の任につき、国際都市ニューヨークの治世を行なっている。そして、その市長の立場から、全米の市長たちに呼びかけ、公共サービス提供の現場である市政の意見を束ねる形で、州や連邦の政府に対して影響を与えている。更にいえば、この市レベルでの連携はアメリカにとどまらず、国際的に行なっている。

つまり、Bloombergは、既存の、連邦、州、市、といった階層化された政府間構造に対して、政治の現実解を求める、という点で、アクションを起こしていることになる。インディペンデントの立場を取るのも、有効なアクションを起こすためにとっている。

もちろん、そのような立場が取れるのは、彼に一定以上の資産があるからだが、しかし、その一方で、実際に、政治を動かそうと思えば、グラスルーツを組織しなければならないと述べており、オバマ大統領に実際に行動に起こさせるには、グラスルーツの働きかけが不可欠だと見ている。その点で、メディア企業体を有していることは大きい。

上記記事は基本的にBloombergへのインタビューをまとめたものだが、その受け答えを読んでいると、彼が、ある意味で、ワシントン政治のフィクサー的立場を得ようとしているようにも見える。それは、オバマ大統領ではなく、バイデン副大統領に、各種改革のリーダーシップを発揮させようとしているところにも見て取れる。いうまでもなく、現職副大統領は次期大統領選の最有力候補の一人だ。あるいは、先日、ヒラリー・クリントン国務長官に対して、国務長官を辞めた後に、ニューヨーク市長選に出馬するよう呼びかけているところも、穿った見方をすれば、2016年大統領選を見据えた動きとして見ることもできる。

このように、政策レベルでも、政治家の人事レベルでも、何らかの影響を与えることに躊躇がない。その意味で、本当にフィクサーになるのかどうか、気になるところだ。以前に、『新潮』の「アメリカ・スケッチ2.0」の連載でも紹介したように、ニューヨークのシリコンバレー化にもBloomberg市長は積極的だ。彼自身がITによって成功を収めたことから、ウェブやITが社会や政治にどのようなフィードバックを与え得るのか、その可能性を汲み取りながら、各種の社会的アクションを起こしているように思われる。むしろ、彼の真価が問われるのは、ニューヨーク市長の任期を全うした後、何をするのか、にあるのだろう。

それにしても、ここのところ、アメリカの政治はキャラクターが増えている。アル・ゴア元副大統領は新著の“Future”を通じて、彼の世界ビジョンを改めて世に問おうとしている。クリントン元大統領は自分の非営利組織であるCGI(Clinton Global Initiative)を通じて国際政治にも独自に影響を与えている。元ローズ奨学生の面目躍如というところだ。2004年の民主党大統領候補であったジョン・ケリー氏は新たに国務長官に任命される。あるいは、2008年にオバマ大統領と大統領選を争ったジョン・マッケイン上院議員は目下の移民法改正でも指導的立場をとっている。これらのベテラン組だけでなく、先日紹介したカストロ兄弟のような後続の若い政治家も登場してきている。老若男女を問わず、様々なキャラクターが登場している。

そのような多数のキャラクターに対して、一体どのような振付をしようとするのか。あるいは、そもそも、そのような振付は可能なのか。Bloomberg氏の動きもそのようなせめぎあいの中の重要なファクターの一つと見ることで、より先が見えてくるように思われる。