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ハリケーン・サンディによる被害への対処に追われる中、ニューヨークのブルームバーグ市長がオバマ大統領のendorse=支持を表明した。
Bloomberg Endorses Obama, Citing Climate Change
【New York Times: November 1, 2012】
A Vote for a President to Lead on Climate Change
【Bloomberg.com: November 1, 2012】
ブルームバーグ市長は、もともとは民主党支持だったが、2001年に共和党候補としてNY市長選に臨み、選出された。しかし、その後2007年に共和党からも脱し、independentの立場で選挙戦を戦い、NY市長に再選されてきた。Independentという立場ゆえ、かつてのロス・ペローのように、大統領選に立候補するのではないかと常に噂されてきた人物だ。
そのブルームバーグが、11月6日の投票日の直前に、オバマ大統領の支持を表明した。その理由は、明らかにハリケーン・サンディによるディザスター(災害)と連想付けられる、地球温暖化問題、環境問題に焦点を当てたもので、その施策の点で、ロムニー候補よりも現職のオバマ候補の方が支持できるというロジックだ。
地球温暖化問題は2008年の大統領選では政策イッシューとして取り上げられていたが、今年の大統領選のキャンペーンでは主題としてあまり取り上げられなかった。10月に都合三回行われたプレジデンシャル・ディベートでも触れられていなかった。特に外交面に焦点が当たった第三回ディベートで扱われなかったことに不満を表明する声も散見された(例えば、アル・ゴア元副大統領等)。
どうやら今回のようにハリケーンが北上したことは初めてのことで、NYを始めとする北東部の都市圏には甚大な被害が生じた。NY市では、暴風や浸水の被害だけでなく、広域に亘る火事や変電所の事故による停電など二次災害も続いた。911の経験から避難などの対応は迅速に行われたようだが、しかし、20世紀初頭から継続して利用してきた社会インフラについては、予算規模の違いもあり、これから対処しないといけないのだろう。特に、NY市の動脈である地下鉄への浸水は大きな影響を及ぼしているようだ。
ディザスターというと、ニューオリンズを襲ったハリケーン・カトリーナが有名だが、今回のサンディの場合、直撃した北東部がアメリカの中でも人口密度の高いメトロポリスであったため、問題をより複雑にしている。避難一つとっても、人びとの移送手段の確保などの規模が異なるからだ。その点で、連邦政府の対応を再評価する声も上がっているようだ。たとえば、NYの隣のニュー・ジャージーでは、共和党のクリス・クリスティー知事が、連邦政府の支援に対してオバマ大統領の決断や実行力をメディアを通じて賞賛する場面まで見られ、選挙戦直前ということもあり、注目を集めた。
いずれにしても、こうした予期せぬディザスターへの対応の直後に、ブルームバーグ市長は、climate changeと関連付けて、オバマ候補の支持を公表したことになる。この土壇場での表明が、しかもディザスター直後の表明が、いわゆるindependent層の判断にどのような影響を与えるのか、については、11月6日の結果と、その後に続くであろう2012年の選挙の総括を行う記事群に注目したい。2008年の大統領選の最中にはリーマンショックが生じ、そこでもNYのウォール街が一つの流れを作った。同種の効果が、投票日直前とはいえ、今回のハリケーン・サンディについても起こるのだろうか。
最後に一つ指摘しておきたいことは、ブルームバーグ市長のオバマ候補の支持表明は、彼が築いたブルームバーグ・ニュースのサイトでアップされていることだ。いつでも自由に自分の立場を表明できるグローバルメディアを保持していることで、土壇場であってもタイミングを逃さずに自らの意見を、一定の影響力を人びとに与えることを期待しながら表明することができる。投票という行為が、究極的には(たとえば電子投票が実現するならば)コミュニケーションの問題でしかないことを再確認させてくれる。
NY市という巨大な人口の支持=ポピュラリティと、迅速に人びとへの判断に影響を与えるメディアの保持、それらを可能にする資金を一代で築いたこと。ブルームバーグ市長の在り方は、今後のポリティクスの在り方の一つの指標になるようにすら思えてくる。