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前回のエントリーでAmazonがダークホース的に気になる存在になってきたと書いたが、実際、そのような動きが見受けられるようになってきた。
まずは、Kindleのタブレットの発売を見越してamazon.comのウェブサイトもリニューアルされる予定だという。
Amazon Tests Website Redesign
【Wall Street Journal: September 5, 2011】
基本的には、タブレットのインターフェースに合わせてウェブサイトの構成を変えていく。ちょうど雑誌社のウェブサイトがiPadの登場を機にリニューアルされたのと似たようなことなのだろう。
タブレットでは、一つ一つのアプリが専用のブラウザのように振舞うので、基本的にはタブレットの画面のフレームがそのままアプリのフレームになる。そのフレームのあり方に合わせて、むしろ、ブラウザで(PC上に)表示されるサイトのデザインが変更されることになる。上のWSJの頁にあるリニューアルイメージでは、従来のサイトのように、データベース的な構成で、多数の情報が盛り込まれているものとは異なり、背景は白を基調として、一つ一つの情報に焦点が当たるような構成、要するによりゆったりとした構成になるということだ。
キーボードやマウスがあり、サイズが異なるPC画面上で展開されるブラウザ中心のウェブの利用では、いわゆるデータベースのイメージに引きずられて、一つのサイトに多数の情報が掲載される。しばしば、目にうるさいほどの情報量が溢れることになる。とはいえ、物販サイトという性格から情報はどうしても増えざるを得ない。その結果、一種のレガシーとしてECサイトのイメージが固定されてきていた。
そのレガシーデザインを、タブレットの導入をきっかけにして見直すことになるのだろう。
よくよく考えてみれば、過去10年ほどの間でユーザーのウェブの利用傾向については、集団についても個人についても、いろいろと経験値が溜まっているはずだ。それらを踏まえれば、利用者にとって無理のないデフォルト時の情報量、利用者に応じた情報の取捨選択(表示するものと隠すものの選択)、ナビゲーションの傾向等、そもそもサイトの設計思想から変更することも可能だろう。
加えて、Amazonの場合、自社製のタブレットを販売するのであるから、さらに微細な部分で、ハードとソフトの調整も可能なように思われる。前にも書いたように、Kindleが届いた時、既にパーソナライズが終わっていた。Kindleは電子リーダーとあると同時に、Amazonユーザーごとに割り当てられた個人端末でもある。
このあたりを考慮して、Amazonのタブレットは、電子リーダーとしての利用を考え、当初は7インチ型のもののみを市場に投入するようだ。
Amazon Is Only Launching A 7″ Tablet? Genius. (Plus A Mockup!)
【TechCrunch: September 2, 2011】
一般的にタブレットは7インチと10インチの二系統があるが、その小さな方を選択するわけだ。この選択によって、タブレットとウェブサイトの両方で、どのようなデザインに落ち着くのか、気になるところだ。
面白そうなのは、もともとのKindleが電子リーダーであったことからすれば、新たなタブレットもそのようなものとして想定されるのではないか、ということだ。つまり、読書に利用される機能がデフォルトのものになる。とすれば、そのような様式の下で、文字通り、(ウェブ)世界を本のように捉える行為が助長されるようになるのかもしれない。
ウェブは、リンク構造からハイパーテキスト性が強調されてきた。「ブックマーク」というようにそのイメージはウェブ総体が本だ、というイメージにかなりよってきた。その一方で、しばしば本は世界、本は宇宙、という言い方もされてきた。ところが、従来は、ウェブと本が別々の存在であったため、こうした発想は比喩レベルのものにとどまっていた。それが、電子リーダーであるKindleが、その仕様でウェブ上の資源にアクセスすることで、文字通り本を読むように、ウェブを読む行為が生じてくるのではないか。そんな空想も可能ではないか。つまり、Kindleが一種のブラウザのように機能する。そのブラウザは、PC上で開発された「ブラウザ(ぶらぶら見てまわる)」とは異なり、「リーダー(注視し読解する)」を踏まえたものになるのかもしれない。
以上は、もっぱらタブレットが「メディアビューアー」になっていることから連想される、コンテント消費/受容に関わる変化だが、AmazonがECサイトの最大手であることを考えれば、Amazonの動きは、Eコマース全般、ひいては物理的な世界におけるコマースにも影響しそうに思えるこ。端的にいって、Wal-Martあたりが、Amazonの変化にどう対応してくるのか。
Amazonは、コマースとコミュニケーションとテクノロジの微妙なバランスの上に成り立っている。そのバランスが、タブレット×クラウドが当たり前になった状態でどのように変わるのか。購買行為が所有意識と連動していることを考えれば、所有の感覚を変える契機にもなるのかもしれない。
かように、暫くの間、Amazonに関する興味は付きそうにない。