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Kindleの機能を包含した、Amazon Tabletの発売に注目が集まってきているようだ。
Analysts see Amazon mounting solid tablet challenge to Apple in 4Q
【Chicago Tribune: August 29, 2011】
強気の予測では、第四四半期にヒットを飛ばし、iPadに迫る商品になるというのもある。そこまでいかなくとも、GoogleのAndroid タブレットして筆頭ポジションを取ることで、Androidタブレットの将来を左右するような商品になると見込まれている。いずれにせよ、Kindleという足がかりを既に持っているため、そこからの延長線でビジネスイメージを作ることができることが魅力のようだ。
振り返ると、Amazonは、Schmidtの夢(クラウド)にしても、Jobsの夢(タブレット)にしても、クラウドとかタブレットとか名指さずに、企業資産の合理的活用という点から真っ先に始めた企業でもある。
本質的に自社の資産がサーバー群からなる分散型コンピュータであることに気づいたAmazonは、その資産の稼働率を上げるために自社のコンピュータ資源を外部企業が利用できるようにした。Schmidtが「クラウド」という用語を使う前のことだ。
タブレットにしてもe-readerであるKindleを市場投入して軌道に載せている。もちろん、初期Kindleはタッチパネル式ではないため、使用感という点ではiPadに代表されるタブレットとは全く異なる。その一方で、iPadの利用の多くがアプリをはじめとしたメディア・ビューアーに傾斜していることを踏まえると、本というメディアのリーダー=ビューアーとしてスタートしたKindleは、タブレットで求められるユーザーの欲望を先んじて形にしたといえる。
ここのところ何回か触れたが、SchmidtもJobsも経営の最前線から退陣したことを考えると、消去法的ではあるけれども、創業者としてAmazonを率いているJeff Bezosの、IT業界における経営者としての位置づけが結果的に高まってきているように思える。
実際、Vanity Fairが発表したNew Establishmentリストでも、FacebookのZuckerberg、GoogleのBrin & Pageに続いてBezosはしっかり第三位を確保している。
The 2011 New Establishment List: And the Top Spot Goes to...
【Vanity Fair: September 1, 2011】
New Establishmentとはさすがにセレブ仕様のVanity Fairだけのことはあるが、しかし、その上位はウェブ系の起業家、創業者、投資家が名を連ねていて、在NYのVanity Fairの視線でも、シリコンバレーを何か新たなこと=予想もつかない変なこと=クリエイティブなことが起こる場として捉えたいということなのだろう。新たなクリエイティブクラスとはウェブ周辺に生まれるというメッセージでもある。同時に、彼らウェブ系の企業形をそのように位置づけることで、きちんと社会の方に目を向けさせようとする(NY的な)メッセージも背後に込められているように思える。
ともあれ、そのリストの三位にBezosはしっかりランクインしている。
Amazonの強みは、わざわざ言うまでもないことだが、実際に物販をしていることだ。その物販の経験と資源を活用してデジタル化された情報商品を売ることもできる。物販事業が最初からあるので、彼らの場合、まず「売る」というところから考え始められるところも強みだろう。メディア事業の場合は、とにかく「ペイモデル」として成立するかどうかを、厳格に検討するところから始めることができる。
以前、購入したKindleがアメリカから届き開封したときに驚いたのは、既にその機械が自分用にパーソナライズされていることだった。タブレットで問題になる無線データ通信についてもAmazon側で予め各国のローカルキャリアと契約を交わし、開封後から3G通信が可能だった。だから、第一印象はe-readerが来たというよりも、Amazonの個人ターミナルが送られてきた、という感じに近かった。もちろん、実際の利用はデジタル本を読むことが中心なのだが、端末のあり方として、Amazonの本業である物販業の性格が明確に体現されたもののように思えた。「顧客満足」の一環としてのKindleであり、その裏返しとしての顧客囲い込みの端末としてのKindleである。この点は、日本の本については現地法人であるAmazon.co.jpを利用しているとわかりにくいところかもしれない。
SchmidtとJobsが退陣した今、Googleにせよ、Appleにせよ、企業統治の空白期間が暫くの間は生じるのはやむをえないことだ。その空白期間の間に末脚よろしく先頭に立って業界を先導するのがAmazonとBezosになるのかもしれない。
もっともレースと違って企業活動にはゴールはない。となると、Bezosに期待を寄せることでむしろウェブの世界にタブレットやクラウドに代わる新しい何かを見出そうとすることが大事なのかもしれない。そして、それはGoogleやAppleには直接関わりなかった「物販」の視点から生じると思っていいのだと思う。そう考えると、Grouponのようなクーポンやポイントの電子化の話あたりが出発点になるのかもしれない。バーチャルグッズの売買も間違いなく範疇だろう。その時、これら「売り方の工夫」のようなものを新たな夢として、つまり文化的な成果として認識して言祝ぐことができるかどうか、そのあたりの受け手の感性も問われるのかもしれない。
息の長いプレイヤーであるAmazonとBezosに改めて関心を寄せたい。