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引退を表明した最高裁判事のJohn Paul Stevens氏の後継者に、判事未経験のElena Kagan氏が指名される見込みのようだ。
Obama Is Said to Select Kagan as Justice
【New York Times: May 9, 2010】
Obama picks Elena Kagan as Supreme Court nominee
【Washington Post: May 9, 2010】
Obama to Nominate Kagan to Court
【Wall Street Journal: May 10, 2010】
オバマ大統領からの正式な発表は、アメリカ時間で5月10日になってからのようだが、既に上に紹介したように、報道各社ともKagan氏の報道を始めている。
Elena Kagan氏については次のような情報が流れている:
●New YorkのUpper West Side生まれ。
●ユダヤ系。50歳。(NYのUpper West Sideはユダヤ系住民が多い地区として有名)。
●女性の法律家。学部はPrinceton Univ. 。J.D.はHarvard Law School。イギリスのOxfordUniv.で修士号も取得。
●オバマ政権でSolicitor Generalを務める。Solicitor Generalというのは、連邦政府の法律問題の助言を行う。司法省長官(Attorney General)の補佐役で、連邦政府が関わる訴訟の主任弁護士の役割。
●Harvard Law School のDean(法学部長)を6年務めた。同校初の女性Dean。
●クリントン政権の政策スタッフ。
●現副大統領のJoe Bidenの上院議員時代、政策スタッフに。
●オバマ大統領とはU of Chicago Law Schoolで教員として同僚だった時代あり。
●民間の法律事務所で弁護士経験あり。
裁判所の判事としての実務経験がないことが、上院での承認過程での争点の一つになりそうだが、実はクリントン政権末期に連邦裁判所判事として指名されたのだがGOPの議員に阻止されたことがある。また、Solicitor Generalは、政府が当事者とならない最高裁での検討事件については、最高裁判事から意見を求められることもある。だから、判事の実務経験がないといっても、最高裁判事が何をするかわからないわけではない。
判事としての実務経験のなさが問題となりそうなのは、デモクラットとGOPで争点が分かれる案件についてKagan氏の考えを公に記した資料が少ない、ないし、ない、ため、承認を検討するための材料に欠けると思われているからだ。
Kagan氏をオバマ大統領がピックアップしたのは、Harvard Law SchoolのDean等の経験から、幅広い法的議論やその議論の立案者を最高裁周辺に呼び集めることができ、「多様性」の確保を期待できると考えたからのようだ。
もし承認されれば現在の最高裁では三人目の女性判事となる。また、50歳という年齢は最高裁判事として長く務めることが期待され、その分、今後の最高裁の雰囲気・空気を作っていく上で重要な役割を果たすと見込まれているようだ。
女性であることや判事以外の経験が最高裁に多様性をもたらすというのは確かかもしれないが、しかし、その一方で、またもやHarvard 出身者か、という意見もある。最高裁判事の出身校がIvy League、とりわけHarvardに傾斜していることは、多様性確保の方針に反するという指摘がなされることだろう。
それ以上に驚くのは、Kagan氏が承認されると、最高裁判事の9人のうち、3人がユダヤ教、6人がカソリックの信者となり、プロテスタントの判事はゼロになるという点だ。むしろ、このことのほうが、アメリカの司法の最高峰としてはバランスを欠く、という議論に繋がりそうだ。様々な意味で、アメリカの法曹界が抱えている一つの問題が炙り出されているように思える。
また、多様な意見や人材を最高裁に引き寄せるために、判事出身ではなく、ロースクールのDeanを務めた人物を採用したい、というオバマ大統領の意向も、よくよく考えれば、それほど、最高裁内の意見の割れ方が、リベラルと保守で二極化してしまっていることの現れでもあると思われる。この点は、過去20年ほどの司法の見直しに繋がると思われる一方で、最高裁自体が、より様々な政治思想が飛び交う、その意味で「政治的」な場に変わる可能性も秘めていると思われる。
まずは、Kagan氏指名の正式発表を待った上で、デモクラット、GOP、の各議員の動きに注目したい。