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メディア産業株は景気の先行指標であり続けるのか?

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May 04, 2010 08:31 jst
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アメリカでは広告不況が底を打ち、メディア産業関連株の評価が戻ってきていると伝えるWSJの記事。

Sprightly Old Media Are Still Elderly
【Wall Street Journal: May 3, 2010】

基本的には伝統的なマスメディア関連企業(Discovery やCBS)の取引株価の評価が、インターネット関連企業(GoogleやYahoo!)の株よりも高めの評価を受けている、と伝えている。

基本的には、「足下の企業の業績(利益やEBITDAのようなキャッシュフロー的指標など)」と「取引株価」との間の「比」をとり、その比が大きいほど期待は高い、という見方をしている。

そうした比で見ると、伝統的マスメディア企業の評価の方がインターネット企業の評価よりも高くなるため、記事中では「BIの時代」に戻ったと触れている。BIとはBefore the Internetの略(どうやらBCに模したようだ)。

もっとも比の取り方は企業毎に扱いを微妙に変えているので、詳しくはWSJの記事で確認してください。

ただ、同じ指標できっちり言わないところは、時間のせきたての中で報道を続ける投資関連ではよくあること。むしろ、この書き手は、伝統的マスメディアkぎょうの業績は短期的には回復基調にあるから、伝統的マスメディア企業の株はBuyだと言外に伝えたいのかもしれない。

ただし、業績が回復というのは、正確には最悪の事態を抜けた、ということにとどまる。その点は記事中でもきちんと留保が付けられている。

つまり、今回の株価の上昇は、あくまでも最近まであった過剰なsellモードからの回復が行われているに過ぎない、という見方のようで、引き続き、長期で見た場合、インターネット企業という直接の競合や、ウェブの利用頻度が上がった消費者の行動の集合的変化によって、メディア産業のビジネス慣行や収益ルールは変わるだろう、と捉えているようだ。

メディア産業セクターでは多くの企業が広告費で収益を上げており、広告費の増減は個別の企業の業績に依存する。したがって、従来は、メディアセクター企業の業績の復調は、広告費収入の回復を意味し、それはまた、総体としての企業業績≒景気の回復を示唆すると捉えられていた。つまり、広告費は景気の先行指標として取らえられてきた、ということだ。

上のWSJの記事も、短期的にはこの視点に立脚していると思われる。だから、次に気になるのは、実際に、一定の回復を見た後、従来のマスメディア企業とインターネット企業との間でどのような対立/協働モードが見られるようになるのか、ということだと思う。


*

それにしても、この記事を書いている人の感覚で言うと、アメリカの経済は回復基調にあると捉えているようで、それが本当ならば、アメリカの経済運営の経験値の高さには感心してしまう。

2000年代初頭のITバブルが弾けてからの回復も見た目には2003年からの回復基調にあって、その余波で2004年夏にはGoogleが上場を果たしていた。

(もちろん、その回復基調のベースには、今から見ればサブプライムの罠が仕込まれていたわけだが、それは後付の知恵でしかないので、今は脇に措いておく。)

同様の回復を行えるのかどうか、にも関心をよせたい。もちろん、メディア産業株が景気の先行指標となり続けるのか、という問題意識とともに。