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April 14, 2010
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junichi ikeda

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地理情報入力は地域性の強い場所から始まる。

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Financial TimesがFoursquareを使って大学街でオンライン版のプロモーションを行う用意があるという。

FT Deal With Foursquare Lets Users ‘Unlock’ Paywall
【PaidContent: April 9, 2010】

Financial Times Goes After Younguns With New Foursquare Deal
【Business Insider: April 9, 2010】

大学街近傍のカフェを中心にFoursquareを通じた位置情報を知らせ、それに基づいてオンライン版のアクセス権を自動的に解放し、学生による無料購読を可能とする。それによってFTの有用性を知ってもらおうというもの。

アイデアとしては地理情報を使ったアクセス制御だから、それほど新鮮なものではない。気になったのは、単純に記事中で最初に利用が始まりそうな大学としてコロンビア大学が含まれていたから。

というのも、確かにコロンビア大学内の学生ラウンジやカフェを中心にFinancial Timesが毎日山のように積まれて、それを手にとって読んでいたことがあるから。要するに、学生向けの購読キャンペーンということ。

ビジネススクールや公共政策大学院のようなプロフェッショナルスクールではWall Street Journalは購読するのは当たり前として、それに加えて、Financial TimesとThe Economistの購読が強く勧められていた。というのも両方ともイギリス系の金融誌・紙で、とにかく金融情報にまつわるものは、国家財政から企業の決算まで非常に詳しく伝えられていて、また、主に国際金融の観点から余波の大きいと思われる政治的出来事についても十分な取材と分析がなされていたから。

とはいえ、そういわれて皆が購入するというわけではない。とりわけ、WSJやNew York Timesを既に購読している場合、それに加えて新聞を取るのは学生にとってはそれなりに厳しいものがある。

ということで、先述のように、学生ラウンジにFT紙を無料体験させるべく置いておく。山のように積まれ、とはいったもののもちろん朝の、コーヒーやベーグルを買って教室に向かう時間帯にはほとんどなくなっていた。

そういう学生向けに行っていたリアルの新聞のプロモーションをオンライン版について行ってしまおう、というのが今回のFoursquareを使った試み、ということ。

*

この試みが面白いと思ったのは、位置情報を使ったプロモーションと言ったときに、さしあたっての入口が、特定の人の集まる場所、つまりは、リアルな場所の傾向や属性に依拠することになるところ。今回の大学街のように地域の特徴が「強い」ところが最初の入口になる。利用の契機となる何らかの支持体が必要になるということ。支持体とは可視的なものだったり、有名性のあるものだったりということ。

つまり、そうした「強い」地域性のあるところをきっかけにしてリアルの情報を位置情報というグリッドを通じて文字どおり座標化するための入力作業がしばらくは続くということ。

上で書いたように、FT紙の無料新聞は、たまたまその時コロンビア大学にいる、学生でない人も手にすることができる。アクセス権はあくまでも地域性によっている。そのようなアクセス機会は大学構内には多数ある。外部では有料のものが無料になる、自由に(平等に)アクセスできる、という点では、一種のアジールともいえる。逆に、特権的な利用空間という点でgated communityということもできる。

裏返すと、Foursquareに代表される地域情報に基づいてアクセス権を任意に設定することにより、従来は空間に付随したアジール性やgated community性をかなり緩い形でたちあげていくことができることになる。

ここから一足飛びに建築や都市計画のようなところにまで思考を飛ばすのは時期尚早だと思うが、そのような問題意識で状況を見守っていきたい。もちろん、AR(Augmented Reality)のアプリケーションの一分野という視点にも心がけるつもりだ。