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November 17, 2009
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junichi ikeda

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ウェブの世界ではテレビも新聞も関係なくただニュースサイトがあるだけだ

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なんだそんなの当たり前じゃないか、と思われるかもしれないが、現実はそんなに簡単ではなく、やはり出自の歴史や文化をひきずるもの。ニュースサイトもそうで、従来は、新聞系のサイトは新聞的に、テレビニュースのサイトはテレビ的に、構成されてきた。

それがどうやら変わってきたようだと伝えるのが次の記事。

Online Ads Are Booming, if They’re Attached to a Video
【New York Times: November 10, 2009】

ニュースサイトは、従来は、テキストベースの新聞的な構成が多かったのだが、ここのところ、映像ニュースが増えてテレビ的になってきた、という。

その理由は、端的にいって、テレビ風にした方がCMを挿入することができて、広告収入が上がるから。従来の新聞の広告源であった、金融、不動産、求職、では広告収入がほとんど望めなくなってきたところで、新たな広告収入源を探してみたら、なんだ、テレビCMがあったじゃないか、というオチ。

アメリカの場合、日本と違って、新聞社とテレビ局が同系列資本(もっといえば新聞社がテレビ局の親会社)ということはなかったので、たとえば、New York TimesとCNNが、ジャーナリズムという同一平面上で(あえていえば同一の「市場」で)競い合ってきた。だから、それぞれが運営するニュースサイトで、同一の広告主や広告手法を奪い合うこと自体には、何の躊躇も生じない。

もちろん、アメリカでも、過去20年間のメディアコングロマリット化の動きの中で、同じ持株会社の下で企業グループを形成する新聞事業とテレビ事業、というのは増えているのも確か。たとえば、MurdochのNews Corp.であれば、新聞としてWall Street Journalを、テレビニュースとしては、Fox ならびにFox Newsを所有している。

そのため、互いに同一広告市場の食い合い(カニバリズム)を牽制し合うことが全くないとまでは言い切れないのだが、それでも、基本的には、新聞もテレビもジャーナリズムとしては同等の立場で競い合っている。

(ついでにいえば、ここにノンフィクション系の雑誌ジャーナリズムも加わる。TIMEやNewsweekのようなものから、New Yorker、Vanity Fair、Rolling Stone、まで。そういえば、イギリスのEconomistはWeeklyだが、Newspaperと名乗っている)。

つまり、ウェブでは、新聞系のサイトも、テレビニュース系のサイトも、どちらもコミュニケーション・テクノロジー的には同一の経営資源で争うことになり、ついには、広告営業上も競い合うことになってしまったわけだ。

ビジネス・エコノミクス的にいえば、「テレビ広告市場」と「新聞広告市場」とが、ウェブのニュースサイトという市場によって「類似市場」として認知されるようになったので、両者の間で「裁定行為(アービトラージ)」が行われ、価格調整が行われてきている、ということ。

しかも、景気後退時には、価格の下方弾力性が増すので、ますます、この裁定行為は進むと思われる。

ということで、このエントリーのタイトルのように、

「ウェブの世界ではテレビも新聞も関係なくただニュースサイトがあるだけだ」

ということになる。

もっとも、ユーザーから見ればそんなこと当たり前なのだが。

けれども、それがニュースになってしまうところに、メディア業界の事情が反映されている。

もちろん、出自のメディアによる認知(いわゆる「ブランド力」)は無視できないので、「映像」ニュースサイトとしては、ケーブルの専業である、CNN、MSNBC、Fox News、あたりが頭一つ抜け出ている。

テレビニュースといえば日本ではCNNが真っ先に想起されるのだろうが、過去10年ほどの間に進んだ、アメリカ政治の「党派的対立」を反映して、最近では視聴率(接触率)では、CNNが他の二者の後塵を拝することも増えてきた。もともとはGOP支持を明確にしていたFox Newsに対して、リベラルな論調だったMSNBCが、党派的対立が激化する中で、結果的にデモクラット支持のニュースメディアになってしまった。

たとえば、今年のアメリカ政治の最大の懸案事項であるヘルスケア改革のような、国論を二分するような政治案件がある場合、Fox NewsはGOP支持のニュースを、MSNBCはデモクラット支持のニュースを流す。その間にはさまれて、CNNは中立≒どっちつかずの報道に終始してしまう。

こういう状況の中に、新聞が出自のNYTやWSJほかの新聞系サイトが、もっぱらCM収入を増やすために、ビデオ映像を増やし、結果的に、「テレビ的ニュース」をウェブの世界で増やすことに一役買うことになってしまった。

いずれにしても、ユーザーサイドからすれば、アメリカでは、ようやくマルチメディア的な、その意味で「ウェブにおける、ウェブにふさわしい形のジャーナリズムの表現様式」が具体的に現れ始めた、といえる。

そう思えば、景気後退も悪いことばかりではない。
「変わらなきゃ」を誰もが共有できるわけだから。