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junichi ikeda

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Googleら Book Settlementの新修正案を公表

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November 15, 2009 19:30 jst
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Google Book Settlementの新修正案が公表された。

Google, Authors, Publishers Offer Revised Book Pact
【Wall Street Journal: November 14, 2009】

Terms of Digital Book Deal With Google Revised
【New York Times: November 14, 2009】

Google relents with revised digital books settlement
【Washington Post: November 14, 2009】

司法省をはじめ、このSettlementの当事者(Google, Authors Guild, Association of American Publishers)以外の、デジタル出版関係者からの修正要求が、和解案の検討を行うNYの連邦地裁に寄せられた結果を受けてのこと。

アメリカ国内からだけではなく、フランス、ドイツ、の政府からも和解案の見直しを求める声明が出されていた。

修正要求のポイントは大きく二つあって:

一つは、和解案の対象があまりにも広いこと。
もう一つは、和解案が今後のe-book市場の健全な競争を損ねる可能性があること。

前者については、フランス、ドイツの意向を意識して、さしあたって対象となる書籍は、アメリカ、イギリス、オーストラリア、カナダ、の出版物に限られることになった。要するに、英語圏の出版物ということ。

後者については、著作者不明のorphan booksについては、独立した代理人(independent fiduciary = trustee)を設置して、彼らが、他のe-book サービスに対してもライセンスを供与する判断を行うようにする。

以前の和解案では、orphan booksについても自動的にGoogleらが設置するRegistryで管理される予定だったが、これではe-book市場に対する和解締結三者の影響力が強くなりすぎるということで、司法省やAmazonらから問題視されていた。Independent fiduciaryの設置によって、orphan booksについては、別扱いにすることを明記している。

このindependent fiduciaryについては、その独立性を担保するために、連邦議会による承認を条件にしている。また、independent fiduciaryの業務は、trusteeといわれることからわかるように、orphan booksの管理代行人であり、主な役割は、orphan booksのライセンシング、そこから得られた収益の受け取り・管理、orphan booksの著作者の捜索、ということになる。首尾よく著作者が見つかれば預かった収益を彼・彼女らに返すことになるし、一定期間を経過しても対象者が見つからなかった場合は、収益はフィランソロピー、もししくは、著者探索のための費用への充当、というように、公的な使途に制限されて、利用されることになる。

新和解案の概要はこのようなところ。もちろん、当事者が提出した和解案に過ぎないので、今後は、年内、もしくは、1月上旬を目安に、今回修正を加えられた部分について、前回和解案の修正を求めて裁判所に意見を出した人びと(団体、企業、役所、個人、等)からの意見が提出される。それら意見を踏まえて、NYの連邦地裁が和解案の認定に向かうことになる。

*

今までも何回か、このSettlementについて、触れてきたが、今回はっきりしたことは、この和解案が、アメリカの政策過程の中に事実上組み込まれたことだろう。

さしあたって、上述の英語圏諸国の出版物に限る、ということは、今後、Google Book Searchへの参画は、一種の二国間条約の締結のようなプロセスを踏むことになることを意味する。つまり、Googleらのシステムを利用するかどうかについては、非英語圏の諸国の方に選択が委ねられることになる。

非英語圏諸国では、独自のe-bookシステムを作ってもいいし、そもそもe-book化を否定してもいい。それは、各国の判断に委ねられることになる。

つまり、e-bookシステムが、世界標準化の政策過程に組み込まれたことになったと言ってもいいと思う。

いずれにしても、現時点ではっきりしたことは、英語圏の、英語の書籍については、e-book化への舵取りだけはほぼ明確になされた、ということ。

*

アメリカの政策過程に組み込まれたことを示唆するもう一つの点は、件のindependent fiduciaryの部分で、連邦議会の関わりが提案されているところ。

興味深いところは、善意の第三者として連邦議会が、むしろGoogleらの方から指名されているところ。民間の間で始めたことでも、そのルールメイキングの途上で、善意の第三者を導入しないことには、恒常的に上手くまわるスキームがつくれないと判断されれば、むしろ、その部分を政府に対して民間から協力要請をしてしまうわけだ。

(もちろん、この部分は、司法省らとGoogleらの間で水面下の調整がなされた結果のスキームだと思われるが)。

何にせよ、Google Book Settlementは、e-bookの動きを、晴れて、アメリカの公共政策(Public Policy)の対象にしてしまったわけだ。

そして、公共政策の対象に格上げされた時点で、もっと様々な「公益(public interest)」についての議論、つまり、単に著作物の扱いだけでなく、プライバシーであったり、図書館行政であったり、あるいは、技術革新における国際競争、というような「公益」も巻き込んだ議論が次に展開されることになると思う。

このようにフェイズが変わったところで、引き続き、このSettlementについては注目していきたい。

しかし、一つ確実に気になることは、政府間の交渉が挟まるようになると、その一方で市場の力でなし崩しに進んでしまう「事実」に対して、取り決めの方が圧倒的に遅れてしまい、結果的に、市場の力を経由した「標準化」の前に、法的取り決めが後追いしてしまうケースも生じるようになる、ということ。

つまり、「デファクトスタンダード化の力」とでもいうべきものの登場が、e-bookでも生じる可能性が高まったということ。そして、e-bookの動きについては、Googleに限らず、競合であるAmazonらを含めて、アメリカやイギリスの英語圏の政府の監督対象として登録されたわけだ。

要するに、e-bookは文化政策の対象だけでなく、産業政策の対象にもなりうる所まで来てしまったということだと思う。