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前々から噂のあったComcastによるNBC-Universal(NBCU)の買収がほぼ確定的になったようだ。
Comcast Said to Be Close to Gaining NBC Universal
【New York Times: November 1, 2009】
Comcast, GE Deal Closer
【Wall Street Journal: October 31, 2009】
NYTによれば、来週にはDealが公表される模様。
Dealの概要は以前のエントリーで記したものとほぼ同じ。新NBCUの株式の51%をComcastが保有し、GEは49%を所有する。GEの意向としては徐々にNBCU株式を売り出していきたようだ。
阻害要因としては、現在NBCU株を20%所有しているフランス企業のVivendiがGEに所有株を譲渡するのを渋ること。また、Comcastの競合としてマードックのNews Corp.が名乗りを挙げる可能性があること。
仮に首尾よくComcastとGEの間に合意に達したとしても、ケーブル最大手のComcastが四大ネットワークの一角であるNBCを有するNBCUを傘下におさめることになるので、連邦政府当局(FCC、DOJ、FTC、等)の承認が必要になる。これには数ヶ月かかる可能性がある。
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このDealが成立した場合、まず、最も象徴的なことは、ケーブル事業者が地上波ネットワークを傘下におさめること。端的に言って、ケーブルと地上波ネットワークの力関係が入れ替わったことを象徴する出来事となる。
次に、現在、News Corp.とNBCUの共同事業として成長著しいHuluがComcastの傘下に入ること。HuluにはDisneyも株式を所有している。つまり、ブロードバンド映像配信事業の一角にComcastも関わることで、CBSを除く三大ネットワーク(ABC、Fox、NBC)との関わりを築くことになる。
Huluは現在は無料広告放送を全米で展開しているが、常に有料化の噂が絶えない。そうすると、ケーブル事業との間の調整が今後浮上する可能性があり、その結果、Huluの戦略も軌道修正しなければならなくなるかもしれない。このあたりは、DOJ(司法省反トラスト局)やFTCあたりから、公正競争の観点、もっといえば、イノベーションの促進/阻害の観点から、検討が加えられるかもしれない。
オバマ政権になってからのアメリカの公正競争政策は、イノベーションを促進するようなら短期的な独占/寡占も構わない、という観点が浮上しているように見えるからだ。逆から見れば、単純に競争を滅殺するだけでなく、近未来に生じるであろうイノベーションによる消費者便益の向上を阻害するようであれば、独占/寡占をよしとしない、という方向に舵を切っているようだからだ。
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とはいえ、今回のDealの根幹にあるのは、GEが長年所有してきたNBCUに魅力を感じなくなった、ということで、これこそが一番気をつけないといけないことだと思う。
つまり、映画やテレビなどのメディア関連ビジネスが、第一にビジネスとしてうまみのある事業でなくなってきたこと。従来は、テレビビジネスは広告ビジネスとして確実に利益が上がる事業だったのだが、これが今後どうなるかわからなくなってきた。広告不況が単なる景気後退の影響だけでない、構造的な問題であることが明らかになってきたため。
第二に、メディア関連ビジネスがGEとしてシナジーがありそうな事業でなくなってきたこと。90年前後のデジタルテレビの規格競争の頃であれば、デジタルテレビになることで、アメリカの家電産業が復活するシナリオも描かれていた。が、その後の動きは、当時の主要競争相手であった日本の家電産業は弱体化したものの、それに代わって韓国メーカーが台頭し、結果的にアメリカの家電産業、とりわけ、AV産業が復活するということは起こらなかった。現在のGEは、他の巨大製造業同様、環境ビジネス関連に照準を合わせており、その戦略の中では、NBCUの位置づけが難しくなってしまった。
第三に、映画・テレビ事業の所有が、メディアビジネスの裾野の拡大により、社会に貢献するような文化事業的性格を意味しなくなってきたこと。むしろ、環境関連やFair Tradeのような部分に(短期的な採算は度外視しても)関わる方が、社会的な名声の確保につながる可能性が高い。
要するに、メディアビジネスがコモディティビジネスになりつつあるため、単体の収益の点でも、シナジーの点でも、社会的貢献(CSR)的観点でも、以前のような魅力を持たなくなってしまった。こうした背景があればこその、今回のComcastとのDealが具体的に動き出したのだと思う。
ComcastとのDealが成立した暁には、メディアビジネスは他のメディアビジネス大手が所有されるのみ、という、外部性に乏しいビジネスに代わっていく可能性は高い。つまり、メディアビジネスが互いに他のメディアビジネスを支えていく、という形で、内向き思考になっていく可能性は高い。
そうした傾向が業界にとっていいことかどうか、というのは今後、メディアの社会的意義、のような主題で語られていくことになるように思う。
いずれにしても、今回のDealは、成立した場合、上述のように、いろいろな意味で、象徴的な、ランドマークとなるようなDealになるように思う。