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junichi ikeda

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Content Display Designerを目指すGoogle

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昨日伝えたGoogle Fast Flipを含めて、ここのところのコンテント関連のGoogleの動きをコンパクトにまとめたNYTのブログエントリー。

Google’s Fast Flip Deal Has a Familiar Ring
【New York Times: September 14, 2009】

エントリー中で言及しているのは、

Google Fast Flip
Google Book Search
Google News

に関する、コンテント関係者の合意(agreement)について。

前々からYahoo!のトップページとGoogleのトップページとの違いとして指摘されてきていたことではあるけれど、アメリカのYahoo!は、数年前にハリウッドからCEOを迎えたことでContent Aggregatorに舵を切り、先日のMicrosoftとの業務提携契約(MSのサーチエンジンの利用契約)によって、名実ともにOnline Media Siteになってしまった。

一方、Googleは頑なに、なかば禁欲的に、自らはコンテントの制作には乗り出さないスタンスを守り続けた。上のエントリーは、このことの理由に触れているように読める。

*

エントリーで指摘しているのは、Fast Flip, Book Search, News, の合意内容として、Googleがこれらコンテントをユーザーに「紹介」し、そこから何らかの収益が発生した場合(広告やペイ)は、コンテント提供者との間でレベニューシェアをしようとすること。これが、Googleがコンテント企業との間でとり交わすデフォルトの関係、ということになる。

とすれば、Book、Magazineにしても、Newsにしても、Googleが考えていることは、今までの、アナログ時代の、印刷物が前提にしていたユーザーの接触形態の部分を、もっと自由に、もっと選択肢のあるものにすることで、一人一人のユーザーから見たとき、便利とか快適とか感じるような「接触形態」を提供することに徹する。それがGoogleが終始考えてきたことなのだろう。

とはいえ、コンテントはそのデータが固着された媒体を除けば、情報財であり、それはサービス財の要素も持ち合わせることになる。コンテント+インターフェースの合わせ技で、ユーザーがそのコンテントを「消費」することになる。

Google自身が提供する付加価値は、そうした「コンテントの接触時の経験」の向上に役立つようなアプリケーションの開発の部分になる。

適切な言葉がないのだが、コンテントの小売+劇場、のような存在にGoogleはなろうとしている。リアルの世界だと、店舗開発や、店内デザイン、ディスプレイ開発、あるいは、販売に直接手を出すかどうかはさておくとしても、セレクトショップ的な存在だろうか。

セレクトショップは、消費者=購入者の側にたった小売店。伝統的な小売が、業種別の販売代理店から構成されていた流通経路で、いわばメーカー=供給者の側のロジックで構成されていたのに対して、セレクトショップは、利用のシーンを考えて、トータルコーディネートのような感じで、従来であれば別々の販売店に置かれていた商品を、文字通り「セレクト」して陳列する。

こういう、利用者の目線、利用者の文脈を尊重する立場にGoogleはこだわっているわけだ。

もちろん、現時点では、Googleも、利用者の「検索行為によって顕在化した意向」や「行動履歴から抽出した無意識の欲望」を顕わにするには至っていないわけだが、セレクトショップの域にまでは達していないのだが、それでも、その前提条件を揃えるために、Fast Flipのようなアプリケーションを開発していると捉えておけばいいと思う。

*

Googleに対しては、しばしば「独占」への危惧が表明されるが、しかし、上のようなことに思い至った後では、こうした「ユーザー経験の向上」に特化したアプリケーションの開発をしている企業がGoogleぐらいしかないため、目立ってしまっているのではないかと思えてくる。

たとえば、Yahoo!は、従来のメディア企業が取ってきた、事業開始時の、コンテント+ディストリビューンを一体化させる、垂直統合型のモデルを選択してしまって、競合企業もGoogleというよりも、マードックのMySpaceのような、既存メディアコングロマリットのオンラインサイトになってしまった。これは、Googleのユーザー経験向上のアプリ開発に特化した路線とは明らかに異なる。

そういう意味では、iPodとiTuneをスタートさせたAppleはGoogleに近い。ただ、Appleは、物理的な存在としてのガジェットまで含めて「デザイン」と考えているふしがあって、Googleの目指す店舗開発、セレクトショップ、というのとは異なる。商品まで自社開発しているわけだから。

Googleなみの基本ソフト開発能力をもつ企業としてはMicrosoft、それから今後同様の動きを見せるかもしれないところとしてOracle+Sunがあるけれども、彼らは、出自が第一にはB2Bに照準したソフトウェア開発なので、Googleのように、最初から、エンドユーザーの「経験」だけに照準を合わせるのは企業文化として難しいかもしれない。

「エンドユーザーの経験向上に対する照準」という点では、むしろ、Web 2.0組の、Social Media、なかんずく、Facebook、MySpace、それから最近であればTwitterあたりが、Googleと同様の問題意識を持っているようにも思える。

ただし、彼らに、Googleほどの開発力と資金力、要するに経営資源があるかというと心許ない。

前のエントリーで指摘したように、Facebookあたりは、外部の、一攫千金を目指すスタータップの開発力をアテにした「オーディション・システム」を採用することで、開発資源の不足分を動的に補おうとするように思う(だから、必然的に「Open 戦略」を採用せざるをえない)。ユーザー「経験」の向上という点で、今最もホットな争点は、Twitterが開いたReal-Time Webではあるが、それもあと半年から一年程度のテーマだろう。

ということで、Googleという会社はやはり不思議な会社だ。物理的な存在(≒ハードウェア)の部分に関わるのを、ぎりぎりのところで思いとどまっている。たとえば、MSはXboxでハードを販売してしまった。対して、GoogleはAndroidではOSなどソフトウェアの提供までだ。

もちろん、この先、エネルギープロジェクトなどでハードに関わってしまうかもしれないが。それでも、今のところは、あくまでも、アプリケーションというソフトウェア、そして、そのソフトウェア開発に裏打ちされた、Fast Flipのような各種プロジェクトのように、いずれも、アイデアや構想が出発点になっている。

そうした「構想力」がどこまで続くのか、あるいは、この次は、どのような構想を披露してくれのか、そういう期待感をどこまで維持できるのか。

まずは、Fast FlipやBook Search周辺で、新しいコンテント体験を提供してくれることを期待したい。