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Chris Andersonの“Free”の中で、Freeを実現するための三つの方策のうちの一つとして紹介された“Freemium”という方法。そのFreemiumを実際に活用しているEvernoteというウェブ・スタータップを紹介しながら、Freemiumの現実をレポートした記事。
Using ‘Free’ to Turn a Profit
【New York Times: August 30, 2009】
Evernoteのサービスは、一種のストレージ・サービスで、どんな情報もEvernoteのサーバーに蓄積でき、その情報を利用者の使うどんな端末(ウェブ、デスクトップ、スマートフォン、等)でも同期して使うことができるサービス。
(Evernoteのサービスはよくある普通のサービスだが、その普通さがFreemiumの例としてふさわしいということ)。
このサービスがまず無料で利用できるのだが、そのうち無料で割り当てられた記憶容量が足りなくなる。そこで、ユーザーの何割かは更なる記憶容量を購入し、そこで初めてキャッシュインフローがEvernoteに対して生じる。
ユーザーの行動特性としては、登録ユーザーのうち、75%が登録後他のサイトに逃げ出してしまう。しかし、その一方で、利用期間が長い人であればあるほど、Evernoteにロックインされ、有料サービスを購入することを厭わなくなるという。だから、Evernoteとしては、とにかくユーザーベースを増やすことが先決。で、有料サービス購入者が一定のボリュームを超えれば、損益分岐点に達する。というのも、サーバーやHDDなどの増設にはそれほどコストがかからないから。
ということで、Evernoteのサービスは、Freemiumの事例に該当することになる。Freemiumでは、一部のユーザーが利用料を支払うことで全体のコストがまかなわれ、さらにそこから利益が出るようになる。
Freemiumのポイントは、「いただけるところから料金をいただく」システムであるところ。
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Freemiumの特徴としては:
●サービスという財が、無形の役務であるがゆえに、支払いの対価として何をイメージするかが利用者一人一人によって異なること。
●ウェブのサービスは、そうしたサービスのイメージの幅を、パラメータとして調整可能なこと。その応用として、ユーザーごとにカスタマイズして提示することもできる。
●それゆえ、支払額は、利用者の価値基準(満足度)と懐具合(支払い許容額)に大きく依存してしまうこと。
つまり、対価感に関するパラメータをいくつか用意し、どのパラメータを中心に当該商品を構成していくか、が大切になる。
たとえば、AndersonはFreemium tacticsとして四つのパラメータを示している。
● Time limited (利用時間制約)
● Feature limited (商品仕様制約)
● Seat limited (利用機会制約)
● Customer type limited (利用者タイプ別制約)
上のEvernoteの場合は、Feature limitedに相当する。
Freemiumの場合は、とっかかりとなる利用はFreeで、利用が習慣化したところで、有料分が発生することになることが多い。つまり、時差付きでキャッシュフローが生じる(さらに、最近の日本でよくみかけるポイント制は、このキャッシュフローのタイミングもポイントによって制御することを可能にしている)。
いずれにしても、ウェブという常に利用者と接続可能で、利用者を特定した上で、個別の対応が後日可能であることが、Freemiumの現実性を高めることになる。
裏返すと、Freemiumは、大量消費時代の基本前提である「定価販売」とそのための「ロジスティックスを含めた効率化(いわゆる「製販統合」)」を覆している。たいていの場合、商品+ウェブ、によって、売りきりの商品(=物財)ですらサービス財に変えてしまうわけだ。つまり、ウェブを通じたコミュニケーションの部分も、当該商品の仕様の一部になっていく、ということだ。
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AndersonはFreeを実現させる方法を、三つ挙げている。
●Direct cross-subsidies
商品はタダで配る変わりに、その後のサービスで商品をタダで配った分を補填する。
●Three-party, or “two-sided,” markets (one customer class subsidizes another)
マッチング型のサービスで、マッチングの場の提供する主体が、二人の利用者のうちの一人から利用料金を取り、コスト全体をまかなう。
●Freemium (some customers subsidize the others)
有料サービスまで利用したユーザーが実質的に無料サービスの費用まで払う方法。
結局のところ、商品をFree(無料)で提供する場合、かかった費用を直接の利用者以外に負担してもらわなければならない。その補填(subsidize)の財源をどこに見つけるかが、Freeとして事業を展開する上での鍵となる。