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August 30, 2009
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junichi ikeda

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SkypeのOBたちはSilicon Valley の起業文化を欧州にもたらすのか?

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現在、欧州で活躍しているVenture Capitalの関係者には、eBayにSkypeを売却して得られたマネーをシードマネーとした、SkypeのOBが多いことを伝える記事。彼らは、欧州にシリコンバレーの起業文化をもたらそうと活発に活動している。

All European Roads Lead Back to Skype
【Wall Street Journal: August 25, 2009】

eBayがSkypeを2005年に33億ドルで買収したのは、欧州のベンチャービジネスの記録に残る出来事であったという。裏返すと、Skypeほど成功したベンチャーの事例は欧州にないということだ。80年代までは、欧州では、政府か銀行が資金供与をして、起業支援というか、産業育成を試みてきた。それが欧州のデフォルトの「起業」文化だった。

その後90年代には、ドットコムバブルの登場によって、欧州でも一時VCが流行ったときがあったのだが、バブルの崩壊とともに潰えてしまった。もちろん、投資先のベンチャーが消えても、ファンドは既に運用を任されてしまったマネーがあるので、結局、これを、buyoutの方に回すことになった。

EUの場合、域内での企業の相互参入が「競争政策」として推奨されていたので、ちょうど80年代のアメリカのように、巨大企業の資産を分解し、域内で合理的な合併や企業分割を行うことに一種の正統性、大義もあったことになる。結局、域内加盟国における、国境を越えた企業資産の組み替えにファンドの資金を回す方がリターンが多くなるという事態が生じたようだ(ドットコムバブルの崩壊へのもう一つの対応は、アメリカ(とイギリス)で起きた不動産バブル。それとCDOなどの関連金融商品)。

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記事が指摘しているように、面白いのは、Skype株の売却益を使って、SkypeのOBたちがVenture Capital ビジネスに乗り出していることで、たとえば、Skypeの創立者のNiklas ZennströmとJanus Friisは、VCとしてAtomico Venturesを立ち上げている。第三者の出資も募って、今のところ、1億4300万ドルまで資金を集めているという。

Netscapeの開発者であったMarc Andreessenが、その後、AngelとしてVenture投資に乗り出しているが、彼と同じことをSkypeのOBたちは試みている。Ventureの成功で得られたマネーを単に自分の懐で暖めるのではなく、それを第三者に「投資」することで、ベンチャーの連鎖と起業家のネットワークを築こうとしている。

VCが一旦下火になった欧州の投資環境を考えると、SkypeのOBたちが行っていることは、シリコンバレー流のVC文化を欧州に根付かせる運動でもある。しかも、その軍資金が、Skype売却によってeBayから得られた資金であるわけだから、いわばシリコンバレーからの偶然の「贈り物」(=僥倖)を使って、シリコンバレー文化の移植を欧州で行っているわけだ。

ここに、Nokiaとはまた異なる意味で、欧州における北欧的な企業(起業)文化の面白さがあるようにも思える。

EU全域で見ると、今、イギリスがしきりに“creative industry”といって、日本のコンテント産業(マンガ・アニメ)振興のように、デザインや映像表現、広告、音楽、などの“Coolness”を伴うビジネスを基幹産業に育てようとしている。イギリスにはもはや世界的競争力を持つ製造業がないから、という理由で振興されている。

そうすると、イギリスが、いわばハリウッド型のエンタメ的な「クリエィティブ」産業の育成に力を入れているとすると、Nokiaや旧Skypeを育んだ北欧諸国は、シリコンバレー型の、テクノロジーに依拠した、クリエィティブ、というよりは「イノベィティブ」な産業の育成に力を入れていると言ってもいいのだろう。

このように欧州の中での産業の役割分担を、アメリカないしはカリフォルニアの北部(シリコンバレー)と南部(ハリウッド)になぞらえて捉えてみると、また少し違った欧州の現在が浮き上がってくるように思える。

ここのところ、Smartphoneに始まったNokiaのことから、北欧のことを考えることが増えてきた。Skype OBたちには、是非とも、彼ら流のシリコンバレーを、北欧、あるいは、欧州に築いて欲しいと思う。もちろん、全く同じものになるはずはないので、シリコンバレーといかにずれる=変異することになるのか、その「差異」の部分に注目したい。アメリカとは別の「起業文化」、「起業生態系」が生まれるような予感がするからだ。