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Nokiaがnetbook市場に参入すると発表。
Nokia Jumps Into Market for Netbooks
【Wall Street Journal: August 25, 2009】
Nokia Plans to Start Making Netbooks
【New York Times: August 24, 2009】
Nokiaは、世界の携帯電話市場の約4割のシェアを占めているのだが、しかし、i-Phone やBlackBerryが牽引するsmartphoneのカテゴリーでは出遅れていた。
今回のnetbook市場への参入は、巻き返し策の一つ。
記事にあるが、netbookとsmartphoneは端末機能としては隣接しているため、将来的には同一市場になだれ込む可能性が高い。その分、多数の企業が参入し乱戦が予想される。GoogleもChrome OSとAndroidによって参入を試みている。
その乱戦の中にNokiaも乗り込もうというもの。
Nokiaはsmartphone市場については、音楽配信を中心に、いわばApple型の参入を試みている。
Nokia Rocks the World: The Phone King's Plan to Redefine Its Business
【Fast Company: September, 2009】
Nokiaの音楽事業であるOvi(記事にあるようにフィンランド語で「ドア」の意味)を統括するTero Ojanperä氏によれば、Nokiaはもはや「携帯電話会社ではない」という。今後は、音楽会社になるつもりであるとすらいう。
面白いのは、開発拠点を、アメリカのBerkeleyとStanfordのBayAreaや、MIT、Cambridge(UK)、その他に、ハリウッド、ヘルシンキ、ナイロビ、北京、など、世界中に開発拠点を設け、そこで現地の文化に直にふれながら、それぞれ文化的背景の異なる人びとがどのような需要の違いを示すのか、そして、それぞれの文化においてどのようなものが「お手頃な」ものして購買に至るのか、研究しているところ。
Nokiaから見れば、Apple、RIM、そしてPalmの、いずれもが、ホワイトカラー(知的仕事従事者)に向けた、その意味ではニッチ市場を目指しているととらえ、Nokia自身は、もっと広い層の人びとに支持されうる商品を産み出したいと考えている。
「世界のミドルクラス向けの端末」というのが、Nokiaの基本イメージ。
なんだか、一昔前の、松下幸之助のような考え方。
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しかし、この“netbook×smartphone”市場を牽引する企業群が、いずれも経済大国のメーカーではない、という事実は、ビジネス活動の国際化を考える上ではいろいろと示唆に富む事実だと思う。
携帯電話についていえば、Nokiaはフィンランド、ソニーエリクソンのエリクソンはスェーデン、そして、サムソン、LGは韓国。Smartphoneでは、BlackBerryのRIMがカナダ。iPhoneのAppleもアメリカの電話市場がAT&TとVerizonの二強が中心であることを考えれば、十分、周縁的な存在(その意味では、AndroidのGoogleも同じ)。そして、netbookは台湾。
これに、LinuxやSkypeのような存在まで考慮に入れれば、通信事業における「小国主義」というのがあるようにすら思えてしまう。それこそ、山口昌男が言っていた「中心と周縁」を地でいくようなところがある。
Nokiaの成功については、いわゆるNordic Modelがあったから、というのは、NokiaのトップでるJorma Ollila氏自らが語っているところ。
Illuminating outline
【Financial Times: July 29, 2009】
自国市場だけではスケールメリットを享受するには小さすぎるため、企業としての成長を見込むには、早い段階から国外市場への参入を図らないではいられなかったこと。そのため、国内市場も国外企業に対して開放しないわけにはいかないわけだが、その状況下で、国内の人材が国外に流出しないように(少なくともEU内ならビザ無しで移動可能)、生活条件をよくするために政府は福祉を充実させないわけにはいかない(フィンランドもスェーデンも1995年にEUに加盟している)。特に、教育に力を入れているといわれる。
こうした環境で育ったフィンランド人(あるいは北欧人)の気質が、いわば自発的にOpen Innovationをよしとする企業風土を作っていった、ということのようだ(ベーシック・インカムがあればこそ、贈与的要素も持つOpen Innovationを恒常的な動きにすることができた、ととるのは、少しできすぎた話か)。
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もっとも、東アジアの国である韓国や台湾に、北欧的なモデルがどこまで当てはまるかはわからない。
韓国については、海外で成功しているサムソンやLG、それに自動車のハンデイ(ヒュンダイ=現代、のことだが英語発音だとこう聞こえる)は、いずれもアジア通貨危機の際のチェボル(財閥)解体によって再編された企業であり、同時に韓国がIMFの救済策を受け入れたことを考えれば、最初から、韓国市場だけでなく、世界市場での販売を視野に入れざるを得なかった。
たとえば、サムソンは、2000年頃には社内にデザインセンターをつくり、製品の技術スペックだけでなく、製品のイメージを決める外観のデザインにも力を入れていたが、これは、消費市場としては十分成熟してしまった(≒既にモノは一通り家庭に行き渡ってしまった)先進国各国で、後発参入組である韓国メーカーがプレゼンスを得るためには不可欠の要素だったはず(当時の日本では、北欧のデザイン家電がちょっとしたブームだった)。
台湾については、中国との問題を抱えているため、経済的には開放的な政策を採らざるをえなかったところがある。そういえば、PCメーカーのAcerもWindowsマシンとしては異例に早い段階からデザインに力を入れていた。
いうまでもなく、韓国、台湾、ともに、かつての日本同様、極めて教育熱心な国。日本同様、大学受験が社会的には大きな関心の一つ。韓国ならソウル大学、台湾なら台湾大学、がそれぞれ国内エリートのトップ(頂点の大学が想定されるのがとても東アジア的な視点)だが、最近では、最初からアメリカやイギリスの大学に留学するのを目指す人も多い。
こう見ると、ある程度までは、北欧と似たような環境、つまり「国外市場を最初から想定せざるを得ない」ことと、「教育水準が高い」こと、が、韓国、台湾についても当てはまると言えそうだ(もちろん、社会体制は全く異なるわけだが)。
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こう見ると、Nokiaについては、北欧的な意味でのinovationの常態化(Open Innovation的発想の定着)によって、仮にsmartphoneの分野で、このままAppleやRIMの後塵を拝することがあったとしても、その次の競争ステージにおいては、改めてマーケットリーダーになりそうな予感がする。
ちょうど、任天堂が、ソニーのプレステが出た時に一瞬やばいかなと思わせたものの、DSやWiiで商品の競争ステージをそっくり変えてしまったのに近いような感じがする。任天堂も、ファミコンで世界中に販路を築いて以降は、最初から世界市場を狙う企業に変わっている。それと似たような動きを、Nokiaも行えるような予感がする。
(余談だが、AppleがAT&TやVerizonに対して周縁的な存在だったと捉えるならば、関西に本社を構える任天堂やSHARPのような会社も、日本国内において地理的に周縁的な位置にあったからこそ、最初から東京を飛び越えて国外市場を見据えることができたのではないかと感じている。東京近郊の家電メーカーが軒並み調子を崩していることを考えると、そこの見方は意外と有効なのではないかと思う)。
さしあたっては、netbookとsmartphoneの市場を両睨みで追いかけながら、ユーザーの利用意向を世界中で観察し理解し、その結果を商品にフィードバックする。その上で、たとえば、音楽ビジネスのように、情報化の結果、ビジネス構造が大きく変わりそうなところに食い込んでいくことで、新たなValue Chainからの金流に自らを位置づける。
Nordic Modelがどこまで普遍的なものか、という問題意識とあわせて、Nokiaの逆転劇に期待したいと思う。