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junichi ikeda

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「自前の良質コンテントのあるサイトに広告をだすのが得策です」

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このように主張する、OPA(Online Publishers Association)の調査結果について。

Web Sites Debate Best Values for Advertising Dollars
【Wall Street Journal: August 13, 2009】

OPAは、オンライン上に自社制作(もしくは調達)のコンテントを公開(=publish)する企業群からなる団体。

主な所属企業は:

新聞: Washington Post, New York Times, Wall Street Journal, Guardian、USA today
テレビ: ABC, CBS, CNBC, MSNBC, ESPN, CNN, TNT, MTV, Fox
ラジオ: NPR
雑誌: BusinessWeek, Condé Nast, Forbes, Time, National Geographic, New York, Martha Stewart, Reader’s Digest
情報: Reuters, Bloomberg,
出版: Harvard Business Publishing, American Express Publishing,
ウェブ専業: Huffington Post, About.com, iVillage,

要するに、普通にいう、メディア・サイトのこと。

こうしたOPAサイトと比較されたのが、Portal(AOL, Yahoo!, MSN)とAd Network (Value Clickなど)。

Portalは、自前のコンテントもあるが、多くはOPAのような企業からコンテントを調達する。その上で、メールや検索などの機能サービスを提供する。広告はそれぞれに頁に埋められる。

Ad Networkは外部にあるサイトを複数抱えて、そこに広告は嵌め込む。一種のシンジケーションサービス。

OPAの調査では、PortalやAd Networkに広告を出すよりも、自前のコンテントを抱えるOPA所属企業のサイトに広告を出した方が有効だ、と結論づけている。

ここで「有効」というのは、ブランドの認知、メッセージの記憶、など、主に、利用者の、認知・記憶に関する点で有効だ、という意味(詳しくは、上の記事中で紹介されているOPAのレポートを見て欲しい)。

不況下というビジネス環境もあって、量的な多さでPortalを、費用の安さでAd Networkを、広告主は選択しがちだが、しかし、それは、ブランド認知の上では得策ではなく、是非ともOPAのサイトを利用すべきと自薦しているわけだ。

(なお、OPAの調査を眺める限り、ここでの「ブランド」は、個々の広告キャンペーンが扱う個別商品・サービスの意味で使われているようだ。だから、「商品・サービス」と言い換えても大差ない。その一方で、いわゆる高額商品≒「ブランド品」の意味ではないし、「企業ブランド≒企業の評判」の意味でもない。日本語で「ブランド」という時は、話し手によってその意味内容がばらつくことが多いが、アメリカの場合は、「商品・サービス」の雅語、ぐらいに思っておけばいいということ)。

*

この調査結果そのものは、そういうものかな、と思うものの、それでも、その前提や、そこからの含意については、疑問に思うところがある。

まず、「ブランド認知」への貢献でOPAサイトは有用、というが、しかし、これは、ウェブが一般化した状況でも有効な考え方なのだろうか、という疑問。

ここで暗黙のうちに想定されているのは、「広告=認知向上が目的」ということ。しかし、広告主=advertiserが欲しいのは、その企業の商品・サービスが実際に売れることであって、「認知向上」はそのための一里塚でしかない。

(もちろん、企業イメージのトータルな向上を目指す場合は、この限りではない。けれども、アメリカの場合、80年代以降、企業の収益性に焦点が当てられ、過剰な利潤が残るような企業経営は良しとされなくなったことを考えると、企業イメージの向上、という課題が、企業の商品・サービスの営業成績の向上とリンクせずに単独で扱われるケースは減っている。GEの“ecomagination”というのはかなりレアなケースだと思う。といっても、GE傘下の企業群で実際にエコ関係の商品が販売されるわけだから、十分、商品・サービスに関するコミュニケーションでもあるわけだが)。

特にオンラインの場合は、認知の次が重要なわけで。この点を重視したから、検索広告は一定の地位を築くことができた。そして、企業のオンライン販売は、人々のオンライン購買経験が増すにつれて、増加している。

こういう事実(というか将来見通し)を、OPAの調査は考慮に入れていないように見える。

だから、「認知向上に貢献します」と言われても、“So What?(だから?)”と返されてしまうのでないだろうか。

もう一つの疑問は、記事にあるが、OPAの方がCPM(1000人あたりの媒体コスト)が10倍でも「認知向上に有効」だから、決して高い買い物ではない、といったところで、それも、So What?と返されてしまうのではないか、ということ。10倍の根拠はやはり問われてしまうだろう。特に、ネットの場合は、スペースに限りがない(というかスケーラブル)ことが、コストの下方弾力性を高めてしまうことになるので、要は、Chris Andersonのいうように、関係者全体で価格調整でもしない限りは、どこかが価格をどんどん安くしてしまう、ということになる。

だから、この調査の問題点があるとすれば、それは、単純に、従来の、アナログ時代の取引形態をスライドした形でオンラインの世界を考えようとしているところなのだろう。

このあたりは、頭を使わないといけないし、実際、関係者の人たちが既に頭を悩ませているところ。だから、ここでも、処方箋がカチッと書けるわけではないのだが、それでも、一つの出発点になると思うことは、上の最初の疑問で書いたとおり、“advertise”でも「広告」でもどちらしても、「知らせたり」「告げたり」することの枠組みから抜け出さないとどうしようもないのではないか、ということ。つまり、「認知向上」は最終目標ではなく、中間目標に過ぎない、ということを再確認するところからスタートする、ということ。

このことは、「広告」関係者、特にクライアントとつきあう側の人たちには、わかっている人はいるにはいるわけで、だから、問題は、上のようなOPA側の人たちの方。彼らの側で、そうした「広告費拠出の理由」の変化に対してあまり理解が進まないのは問題。これは、OPA側で、メディアを作る人と、広告営業をする人が分断されている場合は、極めて難しくなる。

ここで、話がさらにややこしいのは、それなら、広告の方で対処すればいいじゃないか、ということになるのだが、しかし、広告表現の本質は、他のメディアのコンテントに「寄生」するところにあって、だから、広告は本質的に「だまし絵」のようなものであることだ。

(このあたりの歴史的な説明は北田暁大の『広告の誕生』に詳しい。あるいは、鹿島茂『新聞王ジラルダン』にもフランスのケースがとりあげられていたように記憶している)。

だから、OPAの方が、オンライン的になってくれないことには、広告の方は実は動き出せなくなる。そうして、メディア側の動きの遅さにしびれを切らして表出してしまったのが、Branded Entertainmentのような、洗練されたinfomercialであったりする。

そういう意味では、素直に、ネットとかデジタルとかが起源のコンテントとして、CGによるゲームなどの方が、新しい広告の寄生先としては有効なのかもしれない。ゲーム内映像に広告を嵌め込む、という発想は、随分前からあったのだが、ゲーム機がスタンドアロンで使われていたときは、差し替えに問題があった。だが、現代は、既にオンラインで接続されている。映像の書き換えも以前に比べれば遙かに容易だ。というか、現代は、映像自体がフェイクだということが一定の信憑性をもって既に受け入れられている。この点でも、新たな広告の寄生先として有効なのかもしれない。

問題は、カバレッジ、リーチ。この点では、OPAの調査はいい指摘もしていて、つまり、Portalのようにとにかく数を集めるところよりも、その人の内発的な関心事と一定のシンクロをもつ、あるジャンルのコンテントの方が、認知向上(≒コミットメント向上と読み替えていいと思う)、という点で有益だ、というところ。

この論点を引き延ばせば、一つののっぺりとした塊としての「マス」概念はもはやかなりあやしいものであって、一定数のボリュームを集めようと思ったら、各個撃破で寄せ集めて「マスっぽい」ものを、それを必要とするクライアントの要求水準にあわせて、つくりあげていくしかない、ということになる(このことは、マイケル・ジャクソンに関するエントリーで触れていたこととも通底することだと思う)。

ということで、OPAの調査は、こうした批判的な=ツッコミを入れる読み方の方が、Web-centricに向かう現代においては有効な読み方だと思っている。