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(昨日のエントリーの続き)
とはいえ、議会と連携するというけれども主導権まで議会に渡してしまうつもりなのか?そうではなく、ホワイトハウスが主導権を握るにはどう動けばよいのか?
こうした疑問は当然わくわけだが、この疑問への回答部分がBaiの記事では一番興味深かった。
ポイントは:
●ホワイトハウスは、政策の大枠をつくるにとどまり、細部の詰めはむしろ、議会主導という形式を取る。
想像するに、こうすることで、議会のやる気を引き出す、コミットメントを引き出す、というのが第一の主眼。
その上で
●議会での素案は、上院、下院、のそれぞれに任せ、競わせる。
アメリカの立法過程は、上院、下院がそれぞれ並行して法案内容を審議し、それぞれ独立した法案を通した後に、両院で法案の細部の微調整に入る。
素案の段階では、上院・下院の担当の委員会・小委員会で検討する。この段階で、もちろん、上院と下院の担当者は互いに連絡も取り合う。首尾よく委員会での了承を取り付けた後、本会議への審議・可決に持ち込むわけだが、この段階で、上院・下院の特徴が出てくる。両院による最終的な調整段階では、当然、議会全体の大物(下院議長や上院のリーダー)も検討過程に加わるわけだが、オバマたちは、この点も考慮している、という。つまり、
●下院案では、よりリベラル色の強いものをつくることで、デモクラットの支援団体の意向を吸い上げることに務める。一方、上院案では、より現実的な、それは、しばしば中道よりな案を用意する。
Baiも記しているとおり、下院は、一般的に「熱狂性」を帯びやすく、わかりやすい極端な政策に傾きがち。これは、下院が2年単位の選挙、選挙区が市やカウンティ中心の比較的小さな単位で、それゆえ、有権者の声にダイレクトに応えることを求められやすいため。また、議員数も500人を超えるため、個々の議員はより直接的に自分の選挙区の利害を主張することを厭わない。そのため、「舌戦」もしばしば熱を帯びたものになりやすい。
逆に、上院は、任期6年で各州2名選出の計100名。Senateが状況によっては日本語として「元老院」と訳されるケースもあるように、機能的には、下院よりも「思慮深く」判断されることが求められている(大統領の任命スタッフの承認権限も上院だけに委ねられている)。そして、「思慮深く」判断するときの根底にあるものは、「アメリカがなくならないこと」。そのため、予算の判断においても「財政均衡」を重視する人物は多い。国家が財政的に破綻した場合、その責任は予算を承認した議会にかぶってくるため(もともとイギリスで議会が発展したのは、国王の放漫財政に対してチェックするためだった。王を大統領と読み替えれば、基本的な構図は変わらない)。
そこででてくるのが、
●両院の調整の段階で、上院の「思慮深さ=centerへの傾斜」を見込むことで、全体の法案としては、中道色の強いものに変えていく。
オバマは、しばしばプラグマティストと称されるように、政策の判断、政治的決断の際に、イデオロギー的なものには拘泥しないといわれる。そのため、政治的支持を失うような、極端な政策を採ることを好んではいない。
大統領選は、間接選挙かつ勝者総取り方式なので、勝つときは「地滑り的勝利」をするように見えるが、得票数でみれば、単純に考えて、アメリカ人の半分近くは、対立候補に投票しているのが実態。しかも、近年、有権者は、デモクラット支持でもなければGOP支持者でもないindependentが増えていることを考えると、イデオロギー色の強すぎる政策の選択は、次の選挙に影響しかねない。
ということで、一般的には、政策立案の過程では、「声の大きい」、その分政治的には旗幟鮮明な態度を取る各種団体の意向に沿った案を策定しながらも、最終的にはいかにそれを現時点の有権者総体にとって「穏便な」ものにするかが、大切になる。
だから、役割分担を整理すると:
●ホワイトハウスはアジェンダ・セッティングを行い(通常、これがState of Unionで示される。選挙で圧勝した大統領の場合は、しばしば選挙民から“mandate”を得たといわれ、政策の大転換がなされることになる)、そうした政策の実施のために、下院がまずエッジの効いた法案を作り(いわば、内角高めの球を投げ)、上院がそれを穏便なものにまで整形する。そうして、現実的な政策=立法措置を行う。
というところか。現在は、大統領と議会多数派が同一政党に所属しているため、この両院の最終調整の過程に、ホワイトハウススタッフも関与しているようだ(Baiも、Emanuelが両院の調整過程に加わりながら激怒している様を描いていたりする)。
ただし、上院の判断があまりに穏便すぎて、そもそも法案が流れてしまう可能性がある場合には、「民の声」を議会に聞かせて思いとどまらせる必要があるわけだが、そうしたときに、今日では、インターネットによる動員が、重視されているようだ。
(このあたりの動員の様子については、相当戯画的に描かれてはいるものの、映画の“Legally Blond 2(邦題『キューティ・ブロンド ハッピーMAX』)”(って、凄いな邦題タイトル、引用する方が結構恥ずかしい(苦笑))が参考になる。基本はコメディなので、結構楽しめます)。
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このように、おそらくは、議会関係者や各種支持者に対する働きかけが、オバマのホワイトハウスの所望する政策の立案と実現には不可欠であって、それがゆえに、一昨日のエントリーで記したように、オバマのホワイトハウスはコミュニケーションズ戦略を重視しているといってもいいのだと思う。
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ということで、昨日の分とあわせて、ずいぶん長いエントリーになってしまったが、とりあえずは、このあたりで。