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ここのところ、アメリカでは、本当に新聞がやばいという報道ばかりなのだが、そうした記事を渉猟しているうちに、少し前のものだけど、NPRが新聞に代わって、次代のジャーナリズムの中核として期待されている、という記事を見つけた。
Will NPR Save the News?
【March 18, 2009: Fast Company】
Consider This: NPR Achieves Record Ratings
【March 24, 2009: Washington Post】
次代を期待されている点は二つで、
●デジタル化によるマルチプラットフォーム戦略を積極的に展開
ウェブでテキスト情報を補足し、
また、ポドキャストなどを通じて、リスナーの若返りも図れている。
●non-profit形態による複数の収入機会を維持
新聞のnon-profit化が議論されている中、その先行事例として期待されている。
NPRは、もともとは、地区ごとのラジオ局へのニュース素材やニュース番組を提供する事業体として設立されたので(だから本部はワシントンDCにある)、収入の柱は、ローカル局からの番組販売などの収入で、全収入の約4割を占める。その他に、スポンサーシップの広告収入が3割、個人・法人からの寄付が15%。連邦政府からの補助が2%程度。
NPRは1970年に設立されているが、それは67年の公共放送法を受けてのことだった。この法律は、60年代の公民権運動の最中の各種法律と同じように、リンドン・ジョンソン大統領の時代に立法された。時代の空気をすった立法であったため、とにかく情報を広く市民に行き渡らせることが最大の目的として掲げられていて、それもあって、NPRはインターネットが登場して以降、マルチプラットフォーム化に舵を着るのに躊躇がなかったようだ。
NPRは日本でいうキー局的存在になるため、このマルチプラットフォーム戦略に対しては、大都市圏の制作力のあるローカル局(LA、NY、ボストン、など)からは、インターネット上で事業がバッティングするという理由で非難が寄せられているらしい。
とはいえ、リスナーや利用者がついてきているのでなんとかなっているようだ。ちなみに、ラジオの聴取者の平均年齢が40代後半なのに対して、ポドキャストなどは30代前半になっていて、一応、プラットフォーム別にリスナーもわかれている。ポドキャストなどが新しいリスナーの開拓、若年層の開拓に役立っている、といえそうで、このあたりの拡大性、発展性が、上記のローカル局とのバッティングをなんとか緩和してくれているようだ(もちろん、主要局はウェブやポドキャストにも独自に力を入れているのだが)。
面白いのは、オバマの選挙ですっかりウェブ上での献金が当たり前の習慣になったアメリカのリスナーからすると、経営が厳しい(NPRもここのところレイオフをしている)という報道を聞くと、「じゃ、献金ボタンはどこ?」という問い合わせを局にするようで、このあたりは、non-profitという経営形態の特徴になりつつあるようだ。
(アメリカでは、3月末に確定申告をするので、年が明けてから3月くらいまでは、どこで調べたのか、寄付金を募るDMがおびただしい数、届くことになる。)
テレビ優勢、商業放送=広告放送優勢の放送で、また、テレビニュース優勢、主要紙優勢の中で、公共ラジオというのは、従来はマイナーな存在だったのだが、マルチプラットフォームの時代になって、ラジオ以外のメディアが全て視覚のアテンションを取り合う競合になったのに対して、ラジオだけは視覚に寄らないという点で有利になっている。また、商業ラジオのほとんどが、音楽かトークラジオとなった中で、ニュースやジャーナリズムに特化していたのも強みとして生きているようだ。
なかなかに示唆的な動きだと思う。