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アメリカでは日曜にハードな報道系番組が集中して放送されるが、今週は、大統領選後初の日曜ということもあって、大統領選の総括ならびに1月の大統領就任までの間に何をするか、が中心の話題だった。
(今は、三大ネットワークの、こうした報道系番組は、いずれもネットで日本にいながらにして視聴することができる。今回の選挙戦の総括でよく言及されるが、前回の2004年選挙のときには、まだYouTubeはなかった。Political communicationあるいは、よりひろくPublic RelationsのためのCommunicationの方法・手段について、この4年間の進歩は計りしれないものがある。)
とはいえ、もう選挙は終わったのだな、と痛感させられるのは、オバマのメディア露出機会が巧妙にコントロールされるようになってきていること。オバマ自身が語るのではなく、メディアとの直接接触は、彼の取り巻きが請け負うようになっていること。裏返すと、そのために、transition team(政権移行チーム)やWhite House Chief of Staff(首席補佐官)を指名したということだろう。メディアとの距離は微妙に変わり始めている。
その週末の報道番組での話題は、足下の景気後退(というか危機)にどう対処するか、ということで、金融産業への政府による資本注入に加えて、自動車メーカーのビッグスリーを同様に救済できないか、という案が、デモクラット側から出始めている。
私たち日本人は、バブル経済崩壊後の銀行破綻を見ているので、金融産業の救済処置は当たり前のように思っているので、アメリカ(や欧州)で政府が銀行に資本注入をするということにはあまり驚かなくなっている。けれども、これは、少し引いて考えると、政府が私企業に税金を投入して救済することなので、実は税金を投入する(あるいは、国債を発効して政府が借金をした上で資本注入する。その場合は、国債の引き受けては誰か、ということになり、ここでアメリカの場合、しばしば日本が買い手になる、という話になりがち)だけの理屈がちゃんとあるのか、が焦点になる。金融産業の場合は、1920年代後半の金融恐慌の経験もあり、企業の連鎖倒産やそれによる失業者の増大、など、負のシナリオが想起されやすい土壌があるからよいのだが、自動車産業の場合は、はたしてどうなのか、ということになる。
今のところは、自動車産業の中の金融業務を引き受けていた子会社に対する資本注入を行うことで、自動車産業全体の資本の流れを整序し、一般購入者に対するローンを従前通り組める体制にして、販売実績が落ちないようにしよう、というのがポイントのようだ。
アメリカの場合、日本のようにボーナスは確定事項ではないし(少なくとも年に二回、ということはない。6月商戦などない)、サラリーマンが多いわけでもないので、分割払いの提供の仕方やそれを支える金利の調整などが重要な経営戦略になるわけで、証券化技術はここでも重宝されていた(オートローン債権は、住宅購入債権=モーゲージ債権同様、証券化対象の重要なソースの一つ)。
(証券化技術というと、デリバティブ同様、金融危機の張本人のようにいわれるが、すでに私たちの生活=消費の場面にも組み込まれている。既に家計レベルの資金の流れについても、キャッシュフロー概念で捉えられる時代になっている)。
とまれ、ビッグスリーの救済をどうするかが、当面の政治的争点ということだがこれは、デモクラットの場合、自動車産業の労組の問題も含むため、非常にデリケート。大統領選も結果的には、自動車産業が集まるindustrial states(ミシガン、オハイオ、ウィスコンシン、など五大湖周辺州)ものきなみオバマに票を投じていたことも、自動車産業の救済の重要性を物語っている。
そうした雇用問題だけでなく、国の産業政策レベルでも見ても、自動車産業は重要で、たとえば、私たち日本人は、トヨタやホンダがあって国産車もあるのは当たり前に思っているが、世界中の国が国産車を維持できるわけではない(たとえば、ニュージーランドあたりは、自動車は輸入対象のはず)。
だから、国内に、国内資本の製造業がきちんとあるかどうかは、その国の、技術「開発」力の維持のためにも重要な鍵になる(かつての日本バッシングが、自動車と家電という、一般消費財のうち耐久性の高い分野で起こったように)。アメリカの製造業が様々な意味で20世紀初頭の遺制から脱却して21世紀にふさわしいものに変わらなければならないのはいうまでもないことだし、おそらくオバマ政権ではそのための第一歩が記されることになると思うのだが、その土台が消え去ってしまうのはまずい。そう言う意味では、ビッグスリーを救済する意義はあるはずだが。問題は、では、救済対象をどこまでにするか、ということ(たとえば、GEを同様に救済するのか、とか、航空産業も救済するのか、とか)。このあたりの議論の組み立て方が、選挙期間中にGOPから“socialist(社会主義者)”と言われていたオバマ陣営が、どう対処するかは、この先5年ほどの先進国の基本的な経済運営政策の屋台骨となるように思われるので、大変気になるところだ。