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バイアコム、悩む

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Viacom Chairman Says Stock Sales Are Formality, Not a Valuation

【July 20, 2006: New York Times】

MTV Eyes Its Own YouTube

【July 18, 2006: Advertising Age】

新生バイアコムがなかなか株価を上げられず、困っている模様。

*****

昨年末に、株主の圧力から、会社分割をしたバイアコム。MTVを中核にケーブルやインターネットなど成長性のある領域の企業で構成された新バイアコムと、テレビやラジオなど飽和安定市場を中心に構成されたCBS Corp.に分けられた。その新バイアコムが苦悩のようだ。

その理由は、新バイアコムの中核のMTVのビジネスモデルが、YouTubeに代表されるビデオ・シェアリング・サイト群に脅かされているから、という。

MTVは80年代中頃の、ケーブル普及期に登場した、古参のケーブルチャンネル。そのビジネスモデルは、当時、同時に普及期に入った家庭用VTR等に後押しされたジャンルとして登場してきた、ミュージック・クリップをかき集めてチャンネルパッケージとして流すもの。提供音楽会社に対しては、「宣伝してやるから」ということでミュージック・クリップは事実上無料で供出させ、そこにスポンサーを募ることで広告チャンネルとして立ち上がった。

今日では、ケーブルのベーシックチャンネルの要として位置づけられ、その分、ケーブルオペレータからの収入もある。さらに、90年代の衛星放送ビジネスの世界化の中で、中核チャンネルにも位置づけられ、欧州でも人気チャンネルになっている。

当初、レコード会社から無料でビデオクリップを調達できたのは、それが音楽ビジネスの慣行、そして、FMラジオビジネス、の慣行の延長線上に位置づけられたから、と言われる。つまり、レコード業界からすれば、ラジオで音楽をかけてもらうのが、最も有効な「販促手段」だったから、といえる。

YouTubeについては、現在、グレーゾーンの著作権関係の疑念を含めて、いろいろ取り沙汰されているが、そうした法的な解釈についてはひとまず脇に置いて、現象だけに注目すれば、ボランタリーに行われているMTVに近い。言い換えると、何となく口コミ効果的なものにのっかってやってきたメディアビジネスは、こうしたユーザーを連結するプラットホーム的形態、あるいは、投稿が可能な形態、には脆弱だ、ということだろう。

少し前なら、P2Pの音楽シェア形態(NapsterやGroksterなど)や、近時ならMySpaceのようなSNSが、MTVの脅威として指摘され、語られてきた。その延長線上にYouTubeもあるということのようだ。

だから、そうしたYouTubeやMySpaceをMTVが飼い慣らしたい、というのもよくわかる。実際、MySpaceはNews Corp.とバイアコムの間で買収合戦が繰り広げられ、マードックが力業で傘下におさめた経緯がある。

やはり、YouTube周辺、しばらくはおもしろそうだ。

1年ちょっと前には、Google Videoが気になっていたのだけど、ちょっと状況が変わるとプレイヤーも変わる。そうした舞台饒辺かも実は興味深い。

最後に。

このMTVの苦悩ぶりから、実は、メディアビジネスと広告ビジネスは極めて近接したもの、というか、本来は同じものであることが伺えることと思う。現在のように、メディアビジネスと広告ビジネスが産業として独立・分離しているのは、産業として成熟した後に生じる、分業体制でしかないわけだ。

現在、日本のインターネット広告業界の動きに、電通・博報堂ら既存広告業界がなかなか追いつけない、というときに、もっぱら人件費の違いで、ガリバー電通・博報堂は対応しきれない、といわれるが、それは事態の一面しか見ていないことになる。

大事なのは、メディアをつくりつつ広告化していく、ということ。

これはリクルートが紙段階で成し遂げたことだし、Yahoo! Japanもこの延長線上で成功したといえる。

(ついでいえば、インターネットになって新しくなったことは、①技術革新の要素が「広告企画開発」の重要な駆動要因になったこと(だから、ユーザーの利便性向上、が極めて重要になったこと)、②メディア・広告に加えて、実売・交換、の段階まで業務領域に入ってしまったこと、が挙げられる。)

メディア企業はその気さえあれば広告会社の競合になりうるし、広告会社もメディア企業の利害とバッティングする可能性はある(実際、コンテントの領域でそうした小競り合いは生じている)。

どうも、しばらくはYouTubeが、発想(妄想?)の引き金であり続けるようだ。