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下院議員を辞める間際のマージョリー・テイラー・グリーンの発言が尽く正論だった件

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1月4日の“Meet the Press”に、翌日5日に連邦下院議員を辞任するマージョリー・テイラー・グリーン(MTG)が出演した。ちょうどアメリカがベネズエラのニコラス・マドゥロ大統領の捕縛作戦に成功した直後のことで、彼女への質問もまずはそこから入ったのだが、ベネズエラ侵攻から、アメリカ・ファーストの定義、そしてエプスタイン・ファイルへと話題が移るにつれ、彼女の発言が尽く正論ばかりで、ちょっとびっくりした。

端的に、MTGは、正しくアメリカ的なポピュリストであろうとしているのだな、という印象を持った。つまり、世の中を統べる権威者たちに対する怒りを表明し、その言動から議員に選ばれた人物。

もうひとつ感じたのは、南部の「ブリー(bully)」な男性社会で生き抜いた経験から、女性の擁護者であること。その点が、彼女がエプスタイン・ファイルで妥協できない理由だった。

エプスタイン・ファイルとは、だからMTGからすると、自分たちの日常生活を好きなように操作してきた(とMTGが信じる)アメリカの支配層の悪行を暴き、彼らによって虐げられてきた女性を救う、という意味があった。アメリカン・ポピュリズムの根底にある富裕支配層への鉄槌と、彼らの性的被害者だった女性たちの尊厳回復、という2つの点でMTGにとっては看過できないものだった。

したがって、そのエプスタイン・ファイルの公開を渋ったトランプは、彼女からすれば、公約違反の裏切り者となる。

これはこのインタビューを見た個人的印象なのだが、MTGが一時トランプに賭けた背景には、南部の女性が抱える複雑な状況もあったように思える。

南部(MTGの場合はジョージア州)は基本的にレッド・ステイト。つまり、支配層は共和党の白人男性の親父たち。仮に彼らのやり方が間違っていると思っても、ここが南部人の面倒なところだが、だからといって民主党の連中に与するつもりもない。なぜなら、今の民主党は、南北戦争後、南部を支配した「北部」の系統であり、南部の州内を牛耳る共和党の親父たち以上に信用ならない奴らだから。むしろ、この北部のリベラルな連中が、自分たちの生活を抑圧する「富裕支配層」の中核だから。となると、民主党に頼ることなく、民の声の力で、州のドンである共和党の親父たちにお灸を据えなくてはならない。

この南部人の捻れた政治的願望に調子よく応えたのがトランプだった、ということなのだろう。なにしろ、2015年に共和党の大統領予備選に立候補したときのトランプは、全くの門外漢、アウトサイダーだったわけだから。しかも、一応は不動産王を自認する富裕層のひとりだから選挙資金も自分で賄えると思われていた。つまり、民主党は嫌いなのではなから対象外だけど、その一方で既存の共和党の親父たちにも飽き飽きしていた、普通に政治に対して失望し怒りを覚えていた南部の人びとの望む形に、トランプは、何のしがらみもないところで、共和党そのものを変えることができるポジションにいた。

実際、トランプは、そうした南部人やレッド・ステイトの多数派を占める共和党支持者たちの願望を叶えると嘯くことで支持をかき集めた。「嘯く」と書いたのは、MTGの発言を聞くと、結局のところ、トランプにとって「アメリカ・ファースト」とは、「アメリカ(の富裕層・大企業)ファースト」であったことが明らかになったからだ。

そのため、トランプ2.0のトランプは、MTGの目からすれば、共和党をアメリカの一般市民向けに改革する「ポピュリスト」ではなく、閣僚など取り巻きとして抱えた富裕層の利益を叶えることを優先する「権威主義者」、つまりはただの「暴君」になってしまった、ということになる。したがって、もはやトランプと歩調を合わせることはできなくなった、と解釈すべきなのだろう。

「暴君」というのは、エプスタイン・ファイルの公開を渋ったトランプに、女性をないがしろにする、ただの「ブリー(いじめっ子)」な姿を見たからともいえる。つまりは男尊女卑の世界。裏返すと、MTGにとっても、そんな男尊女卑は許せなかった。男尊女卑の南部をなんとかしたいなら民主党の女性たちと共闘してもいいところなのに、それができないところが、今の2極化したアメリカの面倒なところ。

一昔前なら、共和党の中にリベラルな人もいたし、民主党の中に保守的な人もいた。それがレーガン登場以後、徐々に共和党は保守のみ、民主党はリベラルのみ、という区分けが進んでしまった。MTGのトランプとの確執をみると、二大政党制(というよりも双党制)のトラップに囚われたアメリカ政治の出口のなさを実感させられる。


MTGがトランプと袂を分かつことになったのは、トランプが、選挙公約を守ることなく、アメリカ人の生活の向上を目ざす国内政策に手を付けていないこと。つまり、トランプが全くポピュリストではないことに呆れている。

直近のベネズエラ侵攻についても、それがビッグ・オイルの大企業とウォール街のためでしかないと理解している。「麻薬密輸の温床」という侵攻の理由も、それならまずやるべきはメキシコのカルテルの撲滅であるはずだと断じる。

「アメリカ・ファースト」とは、アメリカ国内のアメリカ人の生活を苦境から救い希望のあるものに変えることだったはず。だが、ベネズエラ侵攻は、全くそれとは関係ない。同じ番組出演中のルビオ国務長官が語ったように石油利権をめぐるもの。それで潤うのは、石油、金融、などの大企業だけ。むしろ今後、占領政策が進められるのなら、本来、アメリカ国内に投資されるはずだったカネもベネズエラに落とされることだろう。それでは、アメリカ人の生活は改善されない。

したがって、MTGからすると、ベネズエラ侵攻は、全くアメリカ・ファーストではない。

MTGには22歳、26歳、28歳の子どもがいるが、彼らの将来には、十分なソーシャル・セキュリティは得られない、家も買えない、生活必需品も決して安くない、そんな未来が待っている。いわゆる「中間層の没落」だが、MTGはこのアメリカ社会の窮状をなんとかしたいと考えていた。彼女がMAGAの声の中核であったことを思うと、MAGAもそのような「没落する白人中間層(特に南部)」の恐怖をなだめるところから発していたと考えてよさそうだ。

だからこそ、彼らの救世主となるのは、民主党でも(従来の)共和党でもなく、トランプだった。だが、そのトランプが、ホワイトハウスに返り咲くことで行っているのは、彼自身の願望の成就でしかなかった。実際、トランプはこの1年で個人資産を倍増させているという報告もある。それが今年1年のトランプであり、だから、MTGはトランプのもとを去るしかなかった。トランプは、既存の共和党を破壊するポピュリストでもなければ、南部の男尊女卑の慣行に風穴を開ける男でもなかった。

それにしても、まさかMTGまでトランプから離反する時が来るとは思わなかった。今トランプは、MTGの盟友でもあるローレン・ボーバート下院議員(コロラド州)とも揉めている。MTG同様、ボーバートもエプスタイン・ファイルの公開を強く求めた4人の共和党下院議員の一人だったからだ。彼女への報復としてトランプは、トランプ2.0で初めてのVeto(大統領拒否権)を行使して、コロラド州の公共水道の予算を停めた。MAGA議員とトランプの確執は深まるばかりのようだ。


さて、ここまでMTGがもっぱら、没落するアメリカ社会を憂える真正のポピュリストとして正義にかなった人のように書いたけれど、最後に、とはいえ、彼女も聖人であるわけでないことにも触れておこう。

それは、ニック・フエンタスについてコメントを求められたとき、直接の回答を拒んだことだ。代わりにひたすらFreedom of Speechの原則を持ち出し、フエンタスが何を発言しようとそれは彼の自由だと言うにとどまった。

もうそろそろ本稿を終えたいので詳細は省くが、ニック・フエンタスは、Z世代の若手の極右インフルエンサーとして台頭著しい人物で、彼の発言はネオナチ的な反ユダヤ主義の発言で溢れている。その点で、彼の影響力の増大について、共和党関係者の重鎮たちの間で物議を醸している。

だが、多分MTGにフエンタスについてのコメントが求められたのは、MTGにかつて、カリフォルニアの山火事が、人工衛星からのユダヤ・レーザーのせいだ、というトンデモ発言があったからだ。MAGAを支えたQAnonの流れには、富裕層の筆頭としてユダヤ人を挙げ彼らを悪魔呼ばわりする傾向があったので、それとの関連で、MTGはフエンタスとどのような距離を取るのか、ということが、MTGに向けられた質問の意図だったのだと思う。

だが、その問いに対して、MTGはただただ「表現の自由」について語るばかりだった。むしろ、MAGAにとって「表現の自由」とは、こういう厳しい質問を浴びせられた時に体よく利用する煙幕としての原則なんだなと思った次第。

ともあれ、このインタビューはMTGがある意味、正論お化けか?と思えるくらい、マトモなことばかり言っていることに驚かされた。裏返すと、MAGAの台頭の裏には、そうした正論を放置したまま、ひたすら政治ゲームだけに勤しむ政治家と、ただただルールに準じる官僚がワシントンDCを支配している、とアメリカ人が思っていたことがあったのだろう。トランピズムとは、そうした怒りの結晶だったとすると、トランプが登場してから10年が経過し、ポピュリストとしての彼の仮面が剥げ落ちてきた今、誰がその怒りを引き受けることになるのか。

折しも、オバマケア=ACAの補助金が切れ、2000万人のアメリカ人が、これまで受けてきた医療を継続するのが困難になると心配されている。MTGの発言を聞くと、この2000万人のアメリカ人を救うことで広義のソーシャル・セキュリティの確保を優先するのがMAGAなポピュリスト、逆に2000万人ぐらいどうなってもいいだろう、と思うのがワシントンDCを支配する富裕層、ということになる。そんな単純な話はではないのだけれど、その単純さがポピュリズムの力の源泉であることも確かなことであり、だからこそ、この先のMAGAの行方が気になる。加えて、そこにMTGがどう絡んでくるか、ということも。