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アメリカの情報通信事業の監督当局であるFCC(Federal Communications Commission:連邦通信委員会)が、新たなNet Neutrality Ruleを提案した。120日間、パブリックコメントを求め、年内に最終的なルールを確定する方針だという。
F.C.C. Backs Opening Net Rules for Debate
【New York Times: May 15, 2014】
FCC's Web Tolls Proposal Sets Up a Battle
【Wall Street Journal: May 15, 2014】
Net Neutrality Rule とは、インターネット接続事業者はユーザーの間で交わされる情報(パケット)を特に区別なく平等に、すなわちパケットがどんな類の情報の一部であるかなどを気にせずに「中立的に」扱うことを定めるものだが、先日、テレコムやケーブルなどの有線事業者に対して示されていたルールが裁判所で無効と判断され、新たなルールの策定がFCCに求められていた。今回の新ルールの提案は、そのような要請に応えたものだ。
以前のルールに異を唱えていたのが、テレコムやケーブルといった直接回線を敷設し管理する事業者であったことから、ルールが撤回されることで、回線事業者がユーザーに対する交渉力を増し、例えば、より多くの回線容量を使用する映像ストリーミングサービス会社に「高速料金」を請求することが可能になることが懸念されていた。というのも、アメリカの有線ブロードバンドは、実質、AT&TやVerizonのようなテレコムと、ComcastやTime Warner Cable (ただしTWCはComcastによる買収が公表され、現在はFCCや司法省などによる審査がなされている段階)のようなケーブルによる、実質上の「複占」が成立しているためだ。
今回提案されたルールは結果として、テレコムやケーブルが「高速料金」を設定することを認める一方で、特定の事業者に対して不当に「遅い」あるいは「鈍い」インターネット接続を行うことを禁じるものとなった。したがって、同じNet Neutralityという言葉でも、その中身は大きく変わってしまったことになる。
Net Neutralityという概念が意味するものは、ウェブ上での交信については誰もが平等に扱われることを意味していて、これは、旧来の電話事業で言えば「コモンキャリア」と呼ばれている特性に近い。すなわち、通信内容によらず、通信事業者は通信を求める二者の間を接続すべきだ、というものだ(そして、そのような「公平な接続役」を任されているからこそ、仮にその通信内容が法に反する行為に連なるものであったとしても通信事業者は法的責任を免じられる立場を得ることができる)。
インターネットが、電話に代わって、人びとのあいだの日常的なコミュニケーション手段の中心になった現在、手っ取り早い方法は、インターネット接続事業自体を、かつての電話事業と同様に「公益サービス(Public Utilities)」の一つとして定めてしまい、料金設定などに対して公的に監視されるようにする、というものだ。実際、Net Neutralityという概念を提唱したコロンビア・ロースクールのTim Wu教授はそうした立場の一人なのだが、しかし、この判断は一方で「投資インセンティブの低下」という問題を抱えている。
これは若干細かいアメリカの規制体系の論点になるが、インターネットは、電話事業のような公益事業ではなく、回線インフラの上で展開される付加的な「情報サービス」として位置づけられている。そのため、公益事業ほどのようには規制当局の監視にさらされることはなくなる。そもそも、以前のNet Neutrality Ruleが裁判で無効にされたのも、そこまで事業内容を縛る権限はFCCには存在しないから、というものだった。
したがって、FCCからすれば、
①Net Neutralityの原則を徹底させるためにインターネット接続事業を公益事業へと位置づけ直し、FCCに認められた権限の下で以前のルールの適用を迫る、という方向か、
②ブロードバンド事業への投資意欲を失わせないよう、インターネット接続事業者の位置づけは従来通り情報サービスのままに止め、その代わり、Net Neutrality の原則がなくなった時に想定される「最悪の事態」を回避するために、インターネット接続事業者のユーザーに対する態度が一定範囲に落ち着くよう、限界を設定する方向、
の大きく二つの対処が考えられる。今回は②が選択されたことになる。
もちろん、従来通りのルールを維持し、接続事業者の裁量権の拡大を阻止しようと考える人たちもいる。ウェブ企業の多くはNet Neutralityの堅持を求めている。というのも、Net Neutralityがあればこそ、企業の規模や経験の有無ではなく、「ユーザーからの支持」、すなわち「ユーザーの利便性の実現・拡大」に照準したサービス開発競争が促進され、結果として、ウェブ業界全体が活気づいてきた、と考えられているからだ。
ということで、パブリックコメントが求められている間には、提案された新ルールを巡って、賛成派、反対派、の双方から様々なコメントが寄せられることだろう。加えて、メディアにおけるフォーラム的議論や、関係する政治家や公職者に対するアプローチが続くと見込まれる。
この手の議論の際、常に出てくるのは、FCCには権限がないのだから、その権限を与える法律を連邦議会で通してしまえばいいではないか、という考え方だ。そして、今年は中間選挙の年であり、そのような動きもおそらく水面下では進められるのかもしれない。
とはいえ、以前のルールから後退したといえ、Tom Wheeler委員長を含む、三名のデモクラット(民主党)支持者の委員が賛成したことで、このルールが提案されたことを考えると、仮にGOP(共和党)が多数派だったらどうなっていたのか、と想像してみるのも有益だろう。
いずれにしても、年内には一応の収束を見ることになりそうだ。