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インタラクティブ・コンピューティングへの道を開いたダグラス・エンゲルバート

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パーソナルコンピュータの始祖の一人であるダグラス・エンゲルバートが死去した。享年88歳。

Computer Visionary Who Invented the Mouse
【New York Times: July 3, 2013】

エンゲルバートのデモのもたらした意義については、『ウェブ×ソーシャル×アメリカ』の第2章で扱ったので、詳しくはそちらを見て欲しいところだが、簡単に言うと、エンゲルバートは、PCが誕生する以前の1968年に有名なコンピュータ・デモンストレーションを行い、そのデモンストレーションを通じて、コンピュータのパーソナル化、インタラクティブ化、そしてコンピュータ・ネットワークを介したコラボレーションの可能性を拓いた。

具体的なところでは、マウスが彼の発案といわれるが、それに限らず、人間がコンピュータを利用することで、人間の知性(intelligence)の領野を拡大し、その結果、人間の捉えるリアリティが増大(augment)されることを予見した。

コンピュータ開発史の中で伝説となった彼のデモンストレーションの場には、設営側には、スチュアート・ブランドが、観客側にはアラン・ケイがいた。

ブランドは、後にWhole Earth Catalogを刊行し、スティーブ・ジョブズへの刺激を始めとして、今日のベイエリアでコンピュータが文化として花開くことを先導した。一方、ケイは、ダイナブックというインタラクティブ・コンピュータを考案し、PCからタブレットまで、個人利用のコンピュータのあり方に多大な影響を与えた。

つまり、エンゲルバートは、コンピュータのあり方が、巨大なものから小型のものへ、集団利用から個人利用へ、計算利用から記号処理(文書)利用へ、という具合にドラスティックに変わる、その転換点を用意した人物になる。エンゲルバートがいなかったら、PCというコンセプトが生まれず、その後のコンピュータパワーの利用のされ方も、今とは全く異なるものになっていたかもしれない。

このように60年代には、エンゲルバートを始めとして、今日の情報社会に連なる多くのビジョナリが、そのビジョンを競い合っていた。それから50年を過ぎて、そうしたコンピュータの父祖にあたる人たちが、一人また一人と一生を終えている(エンゲルバートよりも遥かに若いジョブズが亡くなったことは周知の通りだ)。

そういう意味では、改めてコンピュータの開発と発展の足跡を確認するタイミングなのかもしれない。そして、その上で、50年経った21世紀の今日の環境下で、今後のコンピュータの可能性について想像を巡らすべき時期なのかもしれない。

ダグラス・エンゲルバートの冥福を祈りたい。