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前のエントリーで紹介したFCCによる大規模Public Wi-Fi構想だが、この報道はどうやらワシントン・ポストの勇み足だったようだ。
The “Free Wi-Fi” Confusion
【MIT Technology Review: February 5, 2013】
Sorry, U.S., no free Wi-Fi for you
【Venture Beat: February 5, 2013】
FCCには現段階では、そのようなWi-Fi整備構想はなく、単に公共利用できる周波数帯を確保したい、ということのようだ。
とはいえ、そのような周波数帯を用意したら、その周波数帯の使途として広域Wi-Fiを用意したいと考える地方政府やその実行主体としての民間企業が登場することも想像できる。その主体としてGoogleやMicrosoftのようなIT系企業を想定するのも容易なことだ。つまりは、一つのあり得べきシナリオとして、件のWi-Fi構想が浮上した。そう考えればワシントン・ポストの記事の展開も理解できる。ただし、現時点ではそのような構想はまだない、というのが、上のMIT TRの記事の主旨だ。
もっとも、このようにワシントン・ポストの記事に対する反応が即座に多数の人びとによってなされたこと自体、この案件が関係者の注目を集める、あるいは、集めると想像できる人たちが多かったことを表している。
また、そのようなシナリオが想定できるからこそ、既存事業者のロビイングが活発化する、という見方も了解できる。
ワシントン・ポストの記事は、そのような観測気球的なものと理解することができる。そして、そうした観測気球的記事が時に混在することで事態が動くこともあるのだろう。
ただ、前のエントリーにも記したとおり、アメリカのインターネット接続環境、あるいは、ブロードバンド環境の整備について、年末あたりから改めて議論が起こってきているのも確かだし、第二期に入ったオバマ大統領のホワイトハウスと連邦議会が協働して、様々な社会政策について従来の方針を覆すような法案を準備しているのも、また確かなことだ。さらにいえば、オバマ大統領の民主党が、シリコンバレーを中心にしたIT企業からの支持を強く受けていることも周知のこととなっている。
そのような中で、たとえば本件も今後、実際に一歩踏み込んだ方針が示されるのかもしれない。むしろ、そのような空気があるからこそ、連邦政治のお膝元であるワシントンDCを情報ソースとするワシントン・ポストで、今回のような記事が生まれたのだと解釈する手もあるのだろう。つまり、メディア自身がただメディアの外にある事実を客観的に描写するのではなく、その事実の一部の形成に関与する。あるいは、その関与の可能性をわかった上で行使する、という方向だ(このあたりのことは『デザインするテクノロジー』の中で「メディアのアリーナ化」として紹介している)。
いずれにしても、今後の動きに注目すべきことは変わらない。