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2013年の今、Napsterを振り返る

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今年のSXSW(South by Southwest)でNapsterの顛末を描いたドキュメンタリー映画 “Downloaded”がプレミア上映されるという。

Napster Documentary 'Downloaded' to Premiere at SXSW Film Fest
【Mashable】

Napster, the Movie
【All Things D: January 19, 2013】

NapsterはP2P型の音楽ファイルシェア・アプリケーションとして一世を風靡したものの、そのラジカルな音楽ファイルの伝播力からメジャーレーベルに目をつけられ、法的手続きを経て実質的に利用を停止させられた、今となっては伝説の(legendary)サービスと言ってよいだろう。

「伝説の~」というのはその後のウェブ文化への余波を考慮してのものだ。一つには、Napsterが拓いた、ウェブを通じた音楽接触への需要は、その後、AppleのiPod/iTunesという形で商業的に離陸した。この成功をきっかけにAppleが再生し、アメリカ有数の企業に上り詰めたことはいまさら言うまでもないことだろう。そして、その音楽サービスについても、SpotifyやPandoraのような形で、フリーミアムや放送に近い形でのストリーミングサービスも生まれている。映像に比べてファイルサイズが小さくその分インターネット上での配布が容易だった音楽は、エンタメソフトのインターネット上での扱いの雛形を見出す最前線の役割を果たした。

こうした音楽サービスに加えて、P2Pという、個々のPCをクライアントであり同時にサーバーとして使うスタイルのネットワークアプリは、Skypeなどの形でその後も開発が進められた。特定のサーバーへのトラフィックの増加を回避したり、あるいは、ボトルネックとなる経路を極力産み出さずにナローバンドでの利便性を増したり、という点で、様々なアプリの可能性が追求された。また、Napsterで示された「違法性」を回避し、合法的なアプリケーションと生み出す方向に技術者の開発意欲を刺激し、例えばGroksterのようなアプリも開発された。ここに至って、ファイルシェアのアプリの開発は、法との間のイタチごっこのような開発経路をたどるようになった。ちょうど金融商品がSECなどの規制当局が定めたルールをバイパスする方向で開発されるのと類似した方向に旋回したことになる。

このようにNapsterが提起したインターネットとファイルシェアの方向性は、その後の、サービス、技術、法(制度)、に影響を与え、今日まで続いている。映画“Downloaded”はその出発点であるNapsterを描く。既に10年以上も前のことなので、Napsterのことを知らない新たなウェブユーザーも多いことだろう。その意味で見直すにはよいタイミングなのかもしれない。

これは映画を制作する側はもちろん想定外のことだったと思うが、Aaron Swartzが亡くなった直後で、インターネット上での情報=データの配布やアクセスについて関心が高まっているタイミングで、この映画が登場するのも何かの縁なのだろう。あるいは、FBIにシャットダウンされたMegauploadの主催者であるKim Dotcomが全ファイルを暗号化するタイプの新たなファイルシェアサイトであるMegaをローンチするタイミングに合ってしまったことも何かが符合しているように思えてくる。

Kim Dotcom starts new file-sharing site
【BBC News: January 20, 2013】

The Return of Kim Dotcom
【Wall Street Journal: January 20, 2013】

この場合、ある地域で違法なものも他の場所では合法である、という法域の違いも加わってくる点で、ますますインターネットのアプリの世界は、タックスヘイブンのような形で法域の違いを利用して活動を続ける金融の世界に近づいているように思える。

その意味でも、このタイミングで、Napsterの顛末について復習しておくことには意味があるのかもしれない。