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オバマ大統領のホワイトハウスで、Press Secretary(報道官)を務めていたRobert GibbsがFacebook入りする話が浮上しているという。
Facebook May Hire Robert Gibbs, Former Obama Aide
【New York Times: March 27, 2011】
現段階では公式の発表はないので、単なる噂のレベルだが、もしそのような方向に事態が動くと興味深いことが幾つか起こるように思われる。
Gibbsはシカゴ時代からのオバマ大統領の側近の一人で、先日Press Secretaryを退官したのも、もっぱら2012年の大統領選でのオバマ大統領の再選を目指してのものだといわれていた。
ここのところ、ホワイトハウスが主要スタッフの入替が続いている。Chief of Staff(首席補佐官)がRahm EmmanuelからWilliam Daleyに変更になった。Communications DirectorにはDavid Axelrod に代わってDavid Plouffeが就任した。
Emmanuelは先日、シカゴ市長に選出された。そのEmmanuelに代わってChief of Staffを引き継いだDaleyは長らくシカゴ市長を務めてきたDaley 家の一人だ。つまり、オバマの地盤としてのシカゴ、イリノイは、しっかりホワイトハウスに根づいている。
ちなみに、Daley自身はJ.P. Morgan出身のビジネス・エグゼクティブであり、ボーイングや製薬会社のボードメンバーも務めていた。下院で共和党が多数派を示す中、実業界との調整がどうしても必要になる中での抜擢と言われている。
一方、Axelrodは文字通り、2012年の大統領選に向けてシカゴに戻った。代わりにホワイトハウス入りしたPlouffeは2008年の選挙参謀の一人で、大統領選終了後に、むしろホワイトハウス入りしないことが不思議がられていた。そのまま、選挙のプロとして残ったPlouffeは2010年の中間選挙の民主党の参謀も務めていた。
こうした2012年の再選を目指した、ホワイトハウスのスタッフの入れ替えの中で、GibbsもPress Secretaryから退官した。そして、もっぱらGibbsもその再選チームに参加するものと思われていた。
そこでふって湧いたのが、Facebook入りの話だ。
上のNYTの記事によれば、Facebookでは、今までのホワイトハウス報道官の経験を活かして、Facebookの対外的なコミュニケーションを監督・実践して欲しい、ということのようだ。
これは実は面白い話だと思っている。というのも、Facebookは、全世界で6億人のユーザーを抱える巨大なバーチャル国家のようなもので、そこではただの企業としての経営だけでは間に合わなくなっているからだ。そのために、FacebookのNo.2であるCOOには、世界銀行や財務省での勤務経験のあるSheryl Sandbergが就任している。
(Facebookのバーチャル国家的様相については、拙著『ウェブ×ソーシャル×アメリカ』(講談社現代新書)の中で記しているので、関心のある方はそちらもご覧頂きたく。)
つまり、一つの国や政府のように、人々の日々のコミュニケーションのデリケートな案件(プライバシー等)について、ユーザーに説明したり、あるいは、外部の関係者・関係機関に説明をしつつ、賛同を得ることが求められることが、今のFacebookには必要になっているわけだが、そのような対外的なコミュニケーションの司令塔と実践を、実際に政府広報官を務めたGibbsに依頼したいという話だからだ。
むしろ、この話があまりにも説得性を持つがゆえに、噂レベルに過ぎないGibbsのFacebook入りが、ブログでも取りさたされるようになっている。
Facebook to Hire Robert Gibbs, Cell Phone Combatant?
【Vanity Fair: March 28, 2011】
A well-tread path from D.C. to Silicon Valley
【Politico: March 28, 2011】
単なる噂にとどまるのか、それとも実際にFacebook入りするのか、しないにしても、オバマ再選チームに加わるのか。
GibbsのようなPress Secretaryの去就にこれほど関心が集まるのも珍しい。もちろん、それは現在注目の的であるFacebookからの誘い、ということもあるのだろうが、そもそもその事実が、Press Secretaryに代表される、対外的なコミュニケーション、従来はPublic Relationsと言われたものの巧拙が、企業や組織の不沈に関わるものとなったことを表しているのだろう。
ウェブが遍在化した社会では、噂も風評も信頼も等しくウェブの情報頒布・流通回路に乗ってしまう。外部からどう見られるかは、それらの外部とのインタラクション抜きには考えられない。
Gibbsの一件は、そのような社会の中に私たちがいることを明らかにする、兆候的な出来事なのかもしれない。
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追記:
Gibbsに限らず、FacebookのPublic PolicyやワシントンDCへの関わりは以下の記事が参考になる。
Facebook Prepares to Add Friends in Washington
【New York Times: March 28, 2011】