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エジプトでのインターネット・ブラックアウトの後もエジプトの中で稼働を続けているISPであるNoor Groupのことを伝える記事。
Egypt's Only Internet Provider Still In Service: Why Is Noor Online?
【The Huffington Post: January 31, 2011】
この記事によれば、Noor Groupはエジプトのインターネットのうち8%を占めるものでしかないけれど、いまだに稼動している。
なぜかというと:
○エジプトの金融産業の中核である、証券取引所や銀行群が利用するネットワークである。
○エジプト国外に本社のある多国籍企業が利用するネットワークである。
記事中で言及されている企業:FedEx, Pfizer, Novartis, Coca-Cola, Exxon, Mitsubishi(三菱), Bristol-Myers Squibb
要するに、金融と貿易、という一国の経済活動に不可欠な「流れ」を支えるネットワークであるから、というのがその理由のようだ。そして、こうした流れが途絶えると、国の経済も破綻し(たとえば国家破産という結末とか)、国内の問題だけでは済まなくなる、ということなのだろう。
こうした状況は、しばしば国際関係論でいわれる、「自由貿易は国際政治的に極端な事態を回避させることができる」という主張にも呼応しているように見える。要するに、国境を越えて相互に依存する要素が増えることで、互いに極端な手段(たとえば軍事行動等)に訴えずに済む、という考え方を傍証するように思える。
今回のエジプトの出来事については、アメリカのクリントン国務長官は、先週末のテレビ等のインタビューで、”democratic and economic" 、つまり、「政治と経済」の両面からの安定性を求める、というようなことを答えていたと思うのだが、単に政治的安定だけでなく、経済的安定にも言及していたのは、経済的安定というのが他国との関係を考えるきっかけにもなるということだったのだろう。もちろん、アメリカを含む外国企業に対して多大な影響を与えない、という含みもあるのは確かだが。
このように、経済活動という流れの維持は、政治的決定を行う上で重要な「媒介項」の役割を担う、というのがここで想定されていることなのだろう。
ただし、一つ急いで付け加えておくほうがいいと思うことは、上の記事の引用元であるHuffington Post(HuffPo)はアメリカ社会の中では、割と明確にデモクラット=民主党支持のサイトであること。そして、自由貿易が国際的安定をもたらす、というのは、デモクラットが主張してきたものであることだ。クリントン国務長官がデモクラットであることは言うまでもないことだろう。だから、同じ状況について、GOP=共和党よりの言説は、また違った分析の仕方(等閑視を含め)をするのかもしれない。この点は、ある種のバランス感覚が必要になる。
とはいえ、経済活動の多くは不特定多数の人々の生活の基盤となる、いわば「見えないインフラ」で、インターネットが持つ「可視化能力」が、そうした普段を気にしないことを今回明らかにしたいうことは、最低限言えるだろう。だからこそ、今回のシャットダウンが「インターネット史上最悪の出来事」と呼ばれる由縁でもあると思う。
今回の出来事が2011年に入ってすぐに起こったからというわけではないが、もしかしたら、2010年代は、インターネットというのを公式にどのようなものとして位置づけるのか、そのことが主題となる10年になるのかもしれない。