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January 20, 2011
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junichi ikeda

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ComcastによるNBC-Uの取得、実現へ

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January 20, 2011 19:08 jst
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アメリカのケーブルオペレータ最大手であるComcastによる、NBC Universal株の51%の取得が、司法省反トラスト局とFCCの承認によって、事実上、実現した。実際のディールは今月中に遂行されるという。

Federal regulators approve Comcast's acquisition of NBC Universal, with asterisks
【Washington Post: January 18, 2011】

Comcast Wins Regulatory Approval for NBC Deal
【Wall Street Journal: January 19, 2011】

Comcast Receives Approval for NBC Universal Merger
【New York Times: January 19, 2011】

発表されてから一年あまりの連邦政府機関(FCC+司法省反トラスト局)の審査を経て、条件付きながら、ComcastによるNBC-Uの支配権が確立される。

ケーブル大手による、四大地上波ネットワーク=NBCの取得は初めてで、メディア産業的には、80年代に始まったケーブルがそれ以前の業界の主であった地上波を傘下に収めることで、ケーブルと地上波との主格逆転の事態が実現する、ということになる。2010年代は、もはや地上波ネットワークの時代ではない、ということを暗示するようなディールだ。概ね30年で、主客が入れ替わったことになる。

もっとも、このディールは制限付きで、Comcastが自社のケーブルネットワーク+ブロードバンド網に、NBC-Uのコンテントを囲わないような条件が付けられている。

上の記事でも解説されているが、外部のオンラインビデオサービス(たとえば、Apple TVやYouTube等)がComcast-NBCU以外のコンテント事業者(たとえばViacomやDisney等)と、ある分野の映像コンテント(たとえば、音楽、スポーツ、コメディ、等のジャンル)について、オンライン配信の契約に至った場合、その契約条件とほぼ同等の契約内容で、Comcastは傘下のコンテント(多くはNBCUのもの)についてオンライン配信の契約をしなければならない。

このような制約により、ケーブルとブロードバンドという、二つの映像配信ネットワークをもつComcastがオンラインビデオ市場の成長を意図的に損ねないようにしむける、というのが、FCC+司法省反トラスト局の考えだ。

ただし、そのような条件は、実質的に、オンラインビデオ市場とケーブルテレビ市場を、主にケーブルテレビ市場の条件に沿った形で一つの市場にしようとする、一種の裁定行為と見られている。それによれば、おそらくはライセンス料の相対的高騰によって、実質的に、たとえば、Netflixのような、オンラインビデオストリーミング企業のビジネスモデルを破壊することになり、結果的に、既存メディアビジネス事業者の支配力が増し、オンラインビデオ市場におけるイノベーションや消費者便益を損ねてしまう、という意見も出ている。

このあたりは、今後、具体的なケースで、おそらくは裁判を通じて、検討されていくことになると思う。

その一方で、かつてのAOLとTime Warnerの合併のように、互いに相反する利益を持つ二つの企業グループは同じ傘の下でもうまく機能しない、という、主にオペレーション上の組織統合についての懸念を表明する、アナリストたちもいる。Comcastはファミリービジネスとして成長した企業なので、経営統合以前の、経営組織の作り方のところでも、いろいろと手間取ることは想像される。

これもまた、実際にディールが成立してから様子を見ていくしかないだろう。

なお、懸念されたHuluに扱いについては、Comcastは支配権をもてず、ファイナンシャル・ステイクも30%まで、ということのようだ。つまりは、Huluについては、News Corp.とDisneyの意向で経営されていく模様だ。

結局のところ、このComacastとNBCUのディールで、最大の利得を得たのは、連邦政府のようだ。今までは手付かずのままだった、オンラインビデオ市場に対して「制約を与える」=規制をつくる立場の、橋頭堡を築いたことになる。今までならば、AppleとDisneyの間の、民民のディールでしかなく、それゆえ契約内容の公開を強いられることがなかったものも、間接的に政府関係者がアクセスできる情報となる。

このあたりは、先日、オバマ大統領が打ち出した、規制を見なおし、民間のポテンシャルを引き出すことにかける、という方向性とどう調和させていくかが気になるところだ。

ともあれ、久方ぶりに、アメリカのメディア産業地図を塗り替える大型のディールが成立した。

アメリカのメディア産業+連邦政府が、インターネット上で、どのような映像産業、映像文化を作ろうとしていくのか(あるいは、作らずに後退するのか)、注目していきたい。