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アメリカの国外からの収益を無視しては、早晩、映画ビジネスも成り立たないため、国外市場への対応にハリウッドは追われている。
Plot Change: Foreign Forces Transform Hollywood Films
【Wall Street Journal: July 31, 2010】
アメリカ国内の映画収入は基本的に横ばいであるため、増収のポイントは基本的に国外からの収入が担っている。記事にもあるように、中国やロシアで映画館が増設され、単純にスクリーン数が増大するため、そのは配信(配給)チャネルにいかにしてハリウッド製の映画を埋め込んでいくかがハリウッドの直近の経営課題になっているというわけだ。
そのためにはハリウッド製の映画が国外でも受容され、堅調な需要を生み出してくれるようにしなければならない。そこで、キャスティングやシナリオのレベルで工夫をするに至る。当該地域の俳優が出演するなり、アメリカ人にしかわからないような台詞を外したり、という具合に、商品のレベルで変えてくる。最近であれば『インセプション』に渡辺謙が出演している、というのも日本公開を考えての上のことだと取ってもいいのだろう。あるいは『アバター』のようにCGベースの映画にして現地の吹き替えにしても違和感のないものにし、より普遍度の高いものにする方向もあるだろう。
記事にもあるように、少し前のハリウッドの稼ぎ頭はDVDセールスだった。興行収入よりもDVD収入が重要になる中、映画上映は一面でDVDのプロモーションの機会であり、DVDセールスに繋がるような凝ったプロット開発に向かっていった。DVDに収録されたボーナストラックとしてのメイキング映像や監督やプロデューサーによる解説もすっかり当たり前になった。これらは、映画館ではなく家庭で個人的に視聴することを考えてのことだ。いい意味で「巻き戻して」も見てもらえるだけの工夫が仕込まれている。
ただし、そうした仕込みは第一にアメリカ市場を考えてのことだった。今後はそうした仕込みを国外市場でも通じるようなものにしていかなければならない、ということだ。
一番簡単な対応は言葉や文化を越えて鑑賞可能なシンプルなストーリーラインでアクション中心のものをつくっていくことだろうが、それでは顧客が早晩飽きてしまうだろう。この壁をどうやって作品のレベルで、あるいは、ボーナストラックのレベルで対応していくのか、映画鑑賞の様々なレベルで微に入り細をうがつ工夫が凝らされていくのだと思う。
5年や10年経ったところで目に見えた違いが生じているのかどうか、楽しみにしておきたい。