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September 20, 2010
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junichi ikeda

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ウェブ時代のジャーナリストの育成に動き始めるアメリカ

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BusinessWeekに続きNewsweekが売りに出され、週刊誌を中心にジャーナリズムの受難が続いている。その中で、当事者であるジャーナリストたちが自らのキャリアと職能の将来を再考し新しい動きを示し始めている。

Newsweekのベテラン記者であったHoward FinemanがHuffington Post(HuffPo)のシニアエディターに移るという。

Newsweek’s Howard Fineman to Join The Huffington Post
【New York Times: September 19, 2010】

記事にあるように、Newsweekからはベテランの人材流出が相次いでいる。たとえば、日本でも有名な国際政治/経済学者のFareed ZakariaもTime誌に移っているという。Finemanの動きもその一つというわけだ。

移籍先のHuffPoは近年成長が著しいジャーナリズムサイト。もともとはブログや記事の集積サイトとして2005年にスタートしていたのだが、ウェブの普及が進む中、創立者の一人であるAriana Huffingtonがデモクラットの支持者として活躍し、各所の報道メディアに登場することを通じて、人々の間に浸透していった。とりわけ、2008年の大統領選を通じて、デモクラットの中核メディアとしての地位を築いた。長い間疑問視されてきた収益性についても利益が出る形になってきたと次の記事も伝えている。

Arianna’s Answer
【Newsweek: July 25, 2010】

もちろん、従来の新聞やテレビの報道メディアからみれば規模としてはまだまだだが、しかし、将来性については期待が高まってきていると考えていいだろう。実際、HuffPoの他にも、Politicoや、先日ピューリッツァー賞を受賞したProPublicaなど、幾つかのジャーナリズムサイトは既にアメリカのジャーナリズムの中で一定の地位を築き始めている。

そうした動きを受けて、ウェブジャーナリズムを中心に活躍するであろう近未来のジャーナリストを要請する教育機関も具体的に稼働を始める。

New Journalism Degree to Emphasize Start-Ups
【New York Times: September 19, 2010】

CUNY(ニューヨーク市立大学)に新設されるジャーナリズム・スクールでは、テクノロジーとビジネスとジャーナリズムの交差するところで「起業」としてジャーナリズムを始める人達向けの大学院になるという。

従来のジャーナリズム・スクールは記者職としての職能を磨くための専門職大学院だった。たとえば、コロンビア・ジャーナリズム・スクールではテレビジャーナリズム用のスタジオも用意され、ニュースレポーターやキャスターとしての実地訓練も行われていた。あるいは、取材対象によっては高度な専門知識を必要とするため、経済ジャーナリスト、政治ジャーナリスト、のように、取材対象の仕組みを一通り学ぶ講座もあった。とにかく、ジャーナリズム・スクールの学位を取れば、とりあえずは報道機関(テレビ、ラジオ、新聞、雑誌を問わず)で記者職として働けるような職能を得る場所であった。

簡単にいえば、記者職の職業訓練学校がジャーナリズム・スクールだった。そして、その就職先は、制度的に固定された報道機関だったわけだ。

しかし、上のCUNYの大学院は、そうした「レポーティング」の職能だけでは今後は記者としてやっていけない時代を踏まえて、そもそも報道機関をどうやって経営的に回していけばいいか、あるいは、新たに開発されるコミュニケーション・テクノロジーを活用して新たなジャーナリズムのあり方を具体的に模索するにはどうしたらよいか、つまりは、新ビジネスとして起業するにはどうしたらよいか、というところまでをカバーするようだ。

もちろん、そうしたジャーナリズムのあり方は、新卒だけに求められるものではない、という認識から、既に記者として報道機関で活躍してきた中堅の人向けのコース(mid-career program)も用意されている。

要するに、ジャーナリストが今後の環境変化の中でいかに個人としてサバイブし、いかにジャーナリズムとしての持続可能な新形態を生み出すか、に焦点が当てられたコースといえる。そのあたりは、講座への資金援助財団として、長らくジャーナリズム活動に関わってきたKnight Foundationが関わっていることからも窺い知れる。

そもそも、この新ジャーナリズム・スクールの学院長(Dean)が、Bloombergに買い取られたBusinessWeekのエディターだった人物だというのが、現場のシビアさを表していると思う。

このように、アメリカのジャーナリズムは、ウェブの浸透によるマスジャーナリズムの変容という大きな課題に、人材開発のレベルから取り組み始めたということだ。ここで、マスジャーナリズムとしたのは、アメリカの場合、新聞、雑誌、テレビ、ケーブル、ラジオ、が横一線で各々のメディア特性に応じてジャーナリズムとして競っており、有能なジャーナリストはメディアの垣根をやすやすと越えて=転職して、ジャーナリズムとしての横一線のあり方を具体的に示しているからだ。その横一線のジャーナリズムが、ウェブの登場によって、速報性、読者の参加、非ジャーナリストだが専門家による明瞭な分析、などによって挑戦を受けているからだ。もちろん、広告や購読料からの収入形態がウェブによって大きく変わり、そもそもジャーナリストの生計そのものが疑問視されていることもある(だから、BusinessWeekもNewsweekも親会社から、ビジネスとしては不採算部門として売りに出されることになってしまったわけだ)。

件のCUNYの大学院は2012年に最初の卒業生を生み出すという。その年は大統領選の年に当たる。その年の選挙報道には間に合わないかもしれないが、遅くとも2016年の大統領選の頃には本格的にウェブジャーナリズムが主体になった報道合戦が行わるのかもしれない。その時までは、たとえば、iPadによる有料型のニュース提供がどこまで浸透するかも明らかになっていることだろう。Googleなどによって試みられるマイクロペイメントの動きにも一定の決着が図られていることだろう。

そういうビジネスや技術の近未来における変化を見越して、今から人材育成に務める動きが始まったわけだ。将来を見据えた動きとして、そして人材育成には一世代(=20年から30年)かかることを勘案した動きとして、本件を捉えることで学べることは多いと思う。