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シリコンバレーはWall Streetではない。アメリカは一つではない。

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シリコンバレーの老舗VCであるKleiner Perkins Caufield & Byersの元パートナーであったTom Perkinsが、シリコンバレーを擁護する論考をWSJに寄せている。

Silicon Valley Is Not Wall Street
【Wall Street Journal: February 24, 2010】

ワシントンDCの連邦政府が、NYのWall Streetの投資銀行やヘッジファンドと同じように、シリコンバレーのVCを規制しようとしていることに対する反論。

投資銀行業務が基本的に有価証券の売買取引の手数料収入から成り立っているのに対して、VCは投資先であるスタータップの成長に全てが掛かっていることを強調している。

投資銀行業務が基本的にフローの扱いであって、仮にM&Aやバイアウトが成功しても、その後の企業の成長は投資銀行とは関係ない。だから、企業の成長や、あるいは、その企業の雇用吸収力などには投資銀行は関心を示さない。

対して、VCは投資先企業の成長しかリターンがない。首尾よくそのスタータップが成長すれば、新たな雇用も創造する。

だから、投資銀行とVCを一緒くたにするのはやめてくれ、というのがPerkinsの主張のポイント。

アメリカの景気回復も先がなかなかみえないところで、雇用創造力を強調するのは理解できる。カリフォルニアに限らずスタータップが新規雇用の源泉であり、その会社が成長することが経済のエンジンになる、という主張。

このあたりは、アメリカの産業経済が地域的なバリエーションに富むことも加味した方がいい。

たとえば、今回のトヨタヒアリングで、当たり前のことながら、アメリカの自動車産業のお膝元であるミシガンやオハイオなどのIndustrial States出身の議員からの質問が詰問調の厳しいものであったのに対して、トヨタに限らず外国の自動車メーカーの工場を誘致している南部諸州出身の議員はトヨタ擁護にまわっていた。

去年の春先にあったGM救済においては、Industrial Statesの州知事や連邦議会議員らがひたすら救済の必要性を訴えていたのに対して、テネシーやテキサスなどの南部諸州は救済は市場原理に反するし政府が介入すべきでないと猛烈に主張していた。その対立と全く同じ分断線が今回のトヨタヒアリングでは見られた。

だから、上のPerkinsの主張も、DCやNYの金融資本家中心の発想に対して反論をするだけでなく、どさくさに紛れてDCやNYの人間が南西部の産業活力を制御しようという意図に対する反抗でもある。

アメリカは一枚岩ではない。そういう意味では、日本の報道も、たとえば、自国の政府に対して「政府民主党」という言葉を使うように、「アメリカ連邦政府民主党」とでも使う方がいいのかもしれない(もっとも、議院内閣制でないアメリカでは、政府と与党とは必ずしもオーバーラップしないので、こういう表現も適切でないといえばそうなのだが)。

確認したいのは、アメリカは日本人が思うほど国家が国民を覆っているようなところではない、ということ。Perkinsの主張もそういう文脈で捉えておきたい。