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Googleが“living story”という、トピック別のニュースアグリゲーションサービスの試みを公開した。いまのところ、New York TimesとWashington Postの二紙がこの実験に参加している。
Google Unveils News-by-Topic Service
【New York Times: December 8, 2009】
Google, Washington Post and N.Y. Times create news tool
【Washington Post: December 8, 2009】
Google Shows Off New News Service
【Wall Street Journal: December 8, 2009】
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現物を見た方が多分イメージはつかみやすい。具体的なイメージはGoogleのlivinng stgoriesのサイトで見られる。
ざっと見た感じでは、ニュースのアグリゲーションのあり方を、二つの点から最適化させた結果のインターフェースであるように思う。
二つの点というのは:
●Googleのサーチアルゴリズムへの最適化
●ユーザーのWeb上の情報アクセス方法の最適化
あるニュースサイトの、特定のトピックに関する記事(たとえば、NYTのGlobal Warming 関連の記事)を一つのURLの下に集約させる。また、そのサイトではページをいちいち開くことなく、そのサイト内でリンクづけられた記事がそのまま見られる。
記事全体の流れがタイムラインで整理されることで、記事群が「一つのストーリー」として立ち上がる。しかも、新たな記事がアップされることで、そのストーリーは“living story(生きたストーリー)”となる。
そうして、あるニュースサイトの一部をユーザーの利用しやすいように切り出した形のページが作られていくことになる。
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感覚的には、ブログとWikipediaのインターフェースの感じに、ニュースサイトの記事を再編集したもののように思える。
そうして、ニュースサイトの記事がバラバラの、アトム(原子)のように扱われることで、ニュースサイトのまとまりが寸断されていくことを防ぎ、改めて、ウェブ上のニュースサイトに「コンテキスト」を残そうとする試み、ということなのだと思う。
これは、今だったら、Tiger Woodsの事故の伝えられ方で明らかになったニュース消費の現在的な形への対応であるように見える。
つまり、Tiger Woodsの事故については、Twitterによる情報連鎖が圧倒的に早く、多くの人が、事故の概要やその含意についてTwitterを通じてあらかた理解してしまった。おおよそ数十分で多くの人が理解したところで、事件発生後45分後くらいに、ようやくテレビニュースなどでBreaking Newsと称して事故があった、という速報が伝えられた。
こうした事実から、速報性はもはやTwitterなどのウェブテクノロジーに、旧来のジャーナリズム機関はかなわない、という指摘が、ここのところ、アメリカではされていた。
そうした議論の中では、速報性ではもはや太刀打ちできないのであれば、記事のアーカイブとして、社会の出来事の流れを与え、理解や分析の視座・コンテキストを与えるのが、ジャーナリズムの役割だ、という指摘がなされていた。
だから、今回の、Google living storiesプロジェクトは、こうした要請に応えたもののように思える。
ただ、当の報道関係者からすると、Google living storiesで行っていることは、結局のところGoogle Newsと変わらない。つまり、新聞社の方で考えたeditorship(編集方針)を裁断し、機械的なアルゴリムに沿ってユーザーの利用に供するだけだ、という、皮肉な見方は消えていないようで、上のNYTやWashington Postの記事でも、自社がこのプロジェクトに関わっているにもかかわらず、冷ややかな見方で、記事全体がまとめられている。
ということで、報道機関による全面的採用というのにはまだ時間がかかりそうだ。その意味では、ユーザーからのフィードバックでこのサイトがどう変わっていくか、ということが大事な要素になりそうだ。少なくとも、ユーザーからの支持票を相当集めないことには、次のステップに進まないように思える。
Google living storiesプロジェクト自体は、先週、Eric SchmidtがWSJに寄稿したOpinionで、GoogleはNewspaperのパートナーだ、と主張したことの一つの具体的現れでもある。
How Google Can Help Newspapers
【Wall Street Journal: December 3, 2009】
従来からある紙の新聞の編集方針、あるいは、読書体験に基づいて作られた新聞のイメージが、そのままウェブにスライド的に採用されたままの状態にあるのを、できるだけウェブ上の情報接触形態に即して、ユーザーの利用上の利便性を高める形で、ニュースサイトのインターフェースを提案してみた。これが、今回のliving storiesのポイントのように思える。
だから、Googleの提案がそのまま採用されるかどうかは別にしても、新聞紙面、紙のレイアウトから離れた、ウェブ上の情報接触の仕方の提案、という点については、まず評価しておいていいように思う。
そして、この新しい情報接触の仕方の提案、というのは、Smartphoneの興隆によって、ウェブとモバイルの境界が消失しつつあるアメリカでは、今後大きな意味を持っていくように思える。というのも、利用するデバイス(PCやSmartphone)に応じて最適な情報の見せ方があるはずなので、そのための調整という意味で、インターフェースの問題は必ず浮上するはずだから。
こうした点から、今回のGoogleの提案を受け止めておきたいと思う。