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Appleのi-Phoneや、RIM(Research In Motion)のBlackBerryが、この景気後退の中でも比較的順調に業績を伸ばし、Smartphone市場の成長に寄与しているのに対して、世界の携帯市場のシェアトップを占めるNokiaが出遅れ気味になっているという。
Nokia: Outsmarted on Smartphones
【BusinessWeek: July 30, 2009】
その判断は、主に三社の株価の比較からなされている。
だから、この記事は、どうもNokiaが不調気味らしい、というベタな情報として受け止めるだけでなく、未来の占い方として株価を利用する手段があるというのを思い出すのにいい例となっている。
株式市場は「投資家の将来予測の集積が表明される場」である、という了解から、逆に、その会社の将来性に関する、楽観的・悲観的物語が紡がれてしまう。未来予測物語(シナリオ)のジェネレーターとしての株式市場、という受け止め方。
こういう未来予想物語(シナリオ)を随時作っていくためにも、アメリカにおいては、ある企業の株価がその企業の営業キャッシュフローを反映することで形成される形態が望ましいことになる。つまり、「単一商品、単一企業、単一株価」という体制が投資家から見た理想型として好まれる。
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上の記事の場合、Apple、RIM、Nokiaのいずれも、ほぼ携帯電話、というか、(携帯)ガジェットの企業であるため、それぞれの株価を比較して将来イメージを作ることが可能になる。
ファイナンスの考えの基本だが、現在の株価はその企業が将来産み出すであろうキャッシュフローをもとに計算される。だから、「理論的」世界だけの話でいえば、同種の商品を出している企業の現在株価を見れば、それら同種のサービスのうちのどれが、投資家から見た場合、収益がでると見込まれているかがわかることにある。
いくつか注釈をつけておくと、「将来の・・・」といっても、実際には、「5年程度の近未来の・・・」というのが適切。というのも、現在の企業価値の算定には、将来予定のキャッシュフローを割り引くことになるから。
また、商品≒営業活動の将来的な正否を株価から判断するには、対象となる企業が、それぞれ、その商品のキャッシュフローだけでほぼ収益を産み出している、という前提が必要になる。この点で、「単一商品、単一企業、単一株価」が株式市場の動勢からその商品の将来性を評価するには理想的になる。
勿論、いくつかの条件は必要で、たとえば、
当該商品が属する産業が成長期(立ち上がりから成熟に向かう途上)にあって、収益源がその商品(もしくは商品カテゴリー)に限られること、
裏返すと、余剰資金があまりなく、得られた資金は当該商品のキャッシュフローの向上のために再投資されること、
などが前提になる。
会社が首尾良く成長し、当該産業も成熟すると、会社には余剰資金が貯まるわけだが、その資金の扱いに困るぐらいに儲かると、経営者はついつい余計な投資を行いがち。そうして無駄にコングロマリット化が進んだのが、アメリカの場合、第二次大戦後の1950年代から60年代。そして、その反動で企業分割が進んだのが80年代。バイアウトファンドが登場し、大企業のスリム化が一時進んだ。それ以降は、経済状況が良くても、単純に巨大化が進むと言うことはなかった。株主(この場合や機関投資家や巨大ファンド)のチェックを支持する判例が蓄積されていったため。
というわけで、投資家からすると、投下資本の利用形態がきちんと見えて、ある程度の見通しが行えるような企業経営が望ましい。企業の「顔の見える株価」とでもいえばいいのか。
アメリカの企業資産の売買で、M&Aという企業規模・範囲の拡大の動きだけでなく、spin-offやsplit-offのように、特定の事業部門や子会社を切り離して上場させる動きがあるのも、株価が営業成績のシグナルになることが好まれるから、という事情による。
企業年齢として「中年の危機」に達したような企業が、アクティビストファンド系の株主から、企業分割をして、できるだけ営業キャッシュフロー単位で企業経営が行われることを望むのも、そこから上がる収益もさることながら、その株の買い時・売り時を判断する上でノイズの少ない情報を求めているからだ。
そのため、投資家(資本家=金持ち)が、投資活動を円滑に進めていくためにも、経済活動全般があまり巨大すぎる企業に占有されていないことを望むことになる。単一の企業に投資するだけならば、もちろん、その企業が独占的になって、独占利潤を享受する方が投資家にとっても望ましい。しかし、機関投資家やファンドは、通常ポートフォリオの形で複数の資産に分散して運用を行う。そうなると、市場全体≒産業全体のパフォーマンス、という視点から物事を見るようになる。そうすると、たとえば、起業家による新規参入を奨励する方向にも一定の理解を示すようになる。
ということで、これは昨日の反トラスト法のエントリーとも関わってくるが、アメリカでは、反トラスト法の適用が社会的に要請されることになる。一般の人々からは新企業立ち上げの余地を残すという意味で、投資家からは投資機会の微修正が常に可能になるぐらい、市場の機動力を確保しておきたいという意味で。
上の記事もNokiaからすると憶測でケチをつけられていると思うかもしれない反面、早い段階で外部の第三者から自分たちの企業経営について相応の根拠ある批評を加えられることで、自身らの経営計画の軌道修正のためのアラーム、きっかけになっているかもしれない。
というのも、現在、Nokiaがきちんと収益を上げていることは間違いなく、シェアの点でも盤石ともいえる状況にある。Nokiaの地位が揺らぐことはないと社員が思ってもおかしくないだろう。そういうときに、外部からきちんと批評が加えられる回路が存在することは、会社の危機管理の上で重要だということになる。
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欧米のIRやPRが、投資家との対話的なコミュニケーションを行っているように見えるのは、今回の記事のように、株価情報を未来に対するシグナルとして利用する振る舞いが、関係者の間に根付いているから。
そうしたコミュニケーション文化の現れの一つとして、上のNokiaの記事を読むこともできる。