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オバマ政権最大の懸案事項であるヘルスケア改革。これは、歴代の大統領が導入を試みては失敗してきた政策。アメリカで、政策の導入に失敗したという場合、それは、主に連邦議会での立法化に失敗したことを意味する。そして、オバマ政権でも、一歩間違うと、連邦議会議員たちによってヘルスケア改革が阻まれそうな状勢になってきた。
反対を示す議員は、第一に、ヘルスケア改革により直接従来享受してきた利益を失う可能性がある医療・製薬業界とつながりをもった議員たち。第二に、ヘルスケア改革によって生じるアメリカ財政の不均衡を心配する議員たち。さらには、ヘルスケア改革によって最終的には税制改革をしなければならず、それは直接的に選挙のリスクに跳ね返ってくることを懸念する議員らもいる。
そのため、以前のエントリーでオバマは直接介入のタイミングを伺っていると伝えたが、とうとうオバマは自分自身が介入することを選択し、自ら、ヘルスケア改革の重要性を訴えるようになった。
具体的には、先週水曜、大統領に就任してから2回目の、メディアやプレス向けのカンファレンスを開催した。主要なメディア機関(PBS、CBS、NBC、Washington Post)の著名なジャーナリストと、それぞれexclusive interview(独占インタビュー)を行った。この他にも、タウンホールミーティングを各地で行っている。
だが、このメディア露出の連続が、いろいろと物議を醸すようになってきた。次の記事は、そのことを簡単に報告している。
Obama Complains About the News Cycle but Dominates It, Worrying Some
【New York Times: July 23, 2009】
これを読む限りでは、オバマとメディアとの間の密月に、最初の不協和音が生まれてきているようにも見える。ここのところの各種世論調査でも、オバマ政権の支持率は若干だが下がってきている。
それでもオバマがここに来てアクセル全開ともいえるコミットメントを示しているのは、ここが最初の正念場だと思っているからだろう。
ヘルスケア改革自身の持つ重要性もさることながら、このタイミング、つまり、大統領就任一年目のまだモメンタムがあると思われているこのタイミングで勝負に出ないと、後々の政治日程への影響が大きくなると見込まれるから。
法案成立を急ぐのは、来年度からの実行を想定しているから。法案が成立しても、そのための財源=予算が確保されなければ政策の実施は遅れてしまう。
オバマ、ならびに彼を支持するデモクラットの議員にとって望ましいシナリオは、法案を成立させ、予算も確保し、来年1月のState of the Union Address(一般教書演説)で大々的にその内容をアメリカ市民に対して語ること。そうすることで、オバマの支持率を引き続き高位安定させ、2010年に実施されるmid-term election(中間選挙)を、オバマへの信任を梃子にしながら勝利を目指す、というシオリオ。
現在デモクラットが優位を占めている連邦議会も、来年の中間選挙の結果によっては、状勢が変わり得る。そして、勝っても負けても、その原因の一部(かなり大きい一部だが)は、オバマ政権に求められることになる。
オバマのホワイトハウスからすれば、中間選挙で勝利し、引き続き選挙民の信任を受けているというモメンタムを保つことで、2012年の大統領選での再選に向けて足場を固めたいところ。
だから、オバマ政権にしてみれば、このヘルスケア改革は、政策として重要であるばかりでなく、今後のelectoral politics(選挙政治)を占う上でも天王山であり、関ヶ原である、と認識しているわけだ。
支持率低下の徴候が見られる中、歴代の大統領が失敗した政策の導入にあえて挑戦するリスクを冒し、一部の識者からoverexposure(メディアへの過剰露出)と非難されるほどに自らその重要性を説いてまわるのも、この煮詰まった状況が打破され法案が首尾よく成立した暁には、ヘルスケア改革実現の最大の功労者としてオバマ自身が位置づけられることを見込んだ上でのこと。
その意味で、政治家として、ハイリスク・ハイリターンの大きな賭に出ているわけだ。