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i-Phone's edge = network edge

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発売開始三日間でi-Phone 3GS を100万台売り切ったApple。その強みを、Delloit’s Center for the Edgeが実施した、産業構造の変化に関するレポートを参考にしながら分析した記事。

Apple’s network helps prevent a fall
【Financial Times: June 24, 2009】

執筆者であるJohn GapperはFinancial TimesのビジネスコメンテーターでNY在住。

今までともすればAppleの成功はSteve Jobsのカリスマ性によって説明されてしまうことがほとんどだったわけだが、今回は彼が体調不良を理由に長期にわたって不在だったときに行われたので、むしろ、Appleの企業としての実力を同定するのにはいい機会になった。

もう少し正確にいうと、メディアや消費者を中心に紡ぎ出されるAppleの成功譚が、Jobs不在のものとして語られることで、ある意味Jobsの軛から逃れることができるようになったといえる。実際、Jobsが療養のために休暇をとっただけで(いくら以前に膵臓ガンの手術をしていたとはいえ)Appleの株価が急落していたわけで。それは上場企業としては、経営リスクを抱えた会社と思われてしまったことを意味していた。

それを、今回のi-Phone 3GSの成功(といってもまだ立ち上げは良好というに過ぎないが)で、Jobsを欠く経営陣でも何とかやりきれることを示したことになる。Jobsは近々復帰するようだが、とはいえ、(Bill GatesがMicrosoftの経営から引退したように)遠からずJobsも経営権を譲ることになるだろう。カリスマと目された経営者からの経験権の継承はしばしば混乱をもたらすものだが、Appleについては期せずしてi-Phone 3GSのローンチは、その予行演習となった。

そのAppleの強み(edge)だが、上の記事では、Appleがcreative networkのハブになったから、といっている。そして、利用者やサプライヤーを含むネットワーク(≒生態系)があればこそ、技術の進歩や(海外市場の)経済的自由による市場の変化に上手く対応できている、という。

一般的には、Appleこそがたとえば音楽ダウンロード市場を独占している、というように受け取られがちだが(なにせ一人勝ちだがら)、そうではなく、部分的にはオープン戦略も採用しながら、ネットワークを通じて、市場の変化に対応している、ということのようだ。

*

正直言うと、個人的には、これらの説明はデジャビュのところがあって、最後のところなど、競争と協力を同時に行う「Co-opetition経営」の考え方そのもの。そう思ってみると、Delloitの調査実施者の一人であるJohn Hagelも90年代ITブームの立役者の一人であった。Hagelは元McKinseyのコンサルタント。90年代後半、ネットビジネスのビジネスモデルを提案した、“Net Gain”や“Net Worth”の著者として有名。2冊ともIT業界ではちょっとしたバイブルだった。であれば、Delloitのレポートは、pro-digital revolution(デジタル革命支持)に傾斜したものと捉える方が適切なのだろう。

ただ、今回のアメリカの不況に関する状況を見ると、Too-Big-to-Failというのが重要なところで、それは、要するに図体がでかくなりすぎて身動きできなくなるリスクが表面化したこと。この観点からすれば逆に、ある程度自由度のある(≒経営判断が自律してできる)企業群の方が、全てが集約した企業より、リスク耐性があるということなのだと思う。

留学中は政府機関の経営に関するクラスもあったのだが、そこで「組織のRedundancy」というテーマがあった(redundancy =冗長)。政府機関は自活的に収益を上げることがなく基本的に政府予算をただ消化する立場なので、税収低下=予算削減→組織合理化、という動きがすぐ起こるのだが、そのときに、過度な合理化をしてしまうことにより、組織内のアラーム機能がなくなるリスクを抱えることになる、という指摘だった。つまり、似たような機能をもつ組織が併存することで、組織的ミスに対して一方の組織が他方の組織に対するアラーム機能を果たし、結果的に組織全体での大きなミスを事前に回避することができる、という考え方。そのクラスで出てきたケースは、NASAのチャレンジャーの事故の件で、まさに開発予算が削られることで、組織的合理化が急速に行われ、結果的にアラーム機能をそぐほどまでになったため、それこそ、ボルト一本のゆるみ、のようなミスを見逃すことになった、というものだった。

Appleも属するIT業界は、競争が激しいことにより、産業全体=産業生態系として、期せずしてredundancyをうまく担保していると考えることもできるだろう。そうすることで、resilient(弾力性のある)な企業、産業を可能にしているといえる。